(むとう みつめい・おやこたか)
(さえきやすひで)
[剣豪]
おすすめ度:★★★★
♪金杉惣三郎、清之助父子が活躍する「密命」シリーズの第15弾である。その帯を見てちょっと驚いた。佐伯さんの時代小説が1000万部を突破したという。
人気ミステリー作家や国民的な作家なら、珍しいことではないかもしれない。しかし、読者が限定される時代小説の分野で、しかも7年余りの活躍期間での達成というのは画期的なことだ。
「密命」シリーズのほかに、「居眠り磐音」「鎌倉河岸捕物控」「酔いどれ小籐次」「交代寄合伊那衆異聞」など、多くの人気シリーズを持っている。しかも、数カ月に1本というペースで各シリーズの新作を書き下ろしている。物語展開の面白さ、痛快な読み味と、その驚異的な量産体制で読者を引き付けている。
さて、今回の物語は、火消「め組」の鍾馗の昇平に纏持ち昇格の話が持ち上がったところから始まる。
実は、物語を読むまで気がかりなことがあった。主役の二人が江戸を留守にするということは、今回、江戸が舞台になることは少ないのかなと思っていた。ところが、佐伯さんは、鍾馗の昇平という今まで脇役だった若者を江戸の主役に抜擢することで、難問をあっさり解決してしまった。
「密命」シリーズは享保年間を舞台にしているために、町火消の活躍ぶりが再三描かれている。江戸町火消のめ組の頭取辰吉や若頭の登五郎、その女房で札差冠阿弥の一人娘お杏など、魅力的な登場人物が出てくる。鍾馗の昇平は、身丈六尺三寸、体重二十貫を超える巨漢の火消しの梯子持ち。金杉惣三郎を人生と剣の師と慕い、年来、車坂の石見銕太郎道場で剣術の猛稽古に励んできた。長身大力の昇平の面打ちは、「三年殺し」と異名をとるほど。
その昇平の身に事件が起こる。事件を通じて、「密命」ファミリーの結束が固まっていくのが見どころの一つ。剣豪小説でありながら、家族というものを考えさせられるシリーズでもあり、その辺りの心の触れ合いの心地よさが魅力になっている。
また、山中もんという山の民の長・大膳塵外が登場し、重要な役回りを演じている。
目次■序章/第一章 柳生の夏/第二章 江戸の華/第三章 朱房の鳶口/第四章 黄泉の裏里/第五章 秘剣熊狩り/解説:細谷正充