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追善 密命・死の舞

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追善 密命・死の舞追善 密命・死の舞

(ついぜん・みつめい・しのまい)

佐伯泰英

(さえきやすひで)
[剣豪]
★★★★

お気に入りの「密命」シリーズの第13作目。金杉惣三郎の息子で武者修行中の清之助の師・米津寛兵衛の一周忌がテーマ。清之助が柳生の庄を訪れるのも期待感大。柳生石舟斎、宗矩、十兵衛と続く、剣の聖地、柳生の庄で、新たな修行を始める清之助。いよいよ、剣の強さが際立ってきたように思える。どんな敵が現れてもバッサバッサと斬り捨てていくので、安心して読み進められる。

その一人勝ちぶりは、小泉自民党のようでもあり、三冠馬ディープインパクトを思わせるところがあり、横綱朝青龍の相撲のようでもある。今のわれわれに受け入れやすいヒーロー像かもしれない。もっとも、日本には「判官びいき」という言葉もあり、今年は九郎判官・源義経が大河ドラマの主人公になっているが……。

現実社会では、なかなか思い通りにいかないことばかり。ストレスが溜まることが多いが、そんなとき、佐伯泰英さんの「密命」シリーズでスカッとするのも悪くはない。

大身の旗本家当主と嫡男が謎の死を遂げ、その跡には血縁のない別の大身の旗本家から養子が入るという、事件が頻発した。不審に思った南町奉行大岡越前守は、金杉惣三郎に密命を下す。探索を始めた惣三郎の前には、穴沢流の遣い手が警告に現れる。一方、回国修行中の清之助は、奈良の宝蔵院流の槍術道場や柳生道場を訪れる。宮本武蔵の世界になっていくのが面白い。

金杉惣三郎は、御前試合の審判を務めたりして、偉くなってもおかしくないのに、相変わらず火事場始末御用の荒神屋で帳付けとして働いている。その業種の関係もあり、このシリーズでは火事の描写が多い。今回も牛込赤城明神下西天神町から出火し、三番町界隈まで延焼している。

江戸の火事というと、明暦三年(1657)の「振袖火事」 、明和九年(1772)の「行人坂の火事」、文化三年(1806)の「芝車町の火事」が三大大火として有名。つい最近まで「文化の大火」の火元を芝車坂と思っていたが、いろいろ調べてみたら、「芝(高輪)車町」から出火というのが正しいようだ。惣三郎の住まいがあるのが「芝七軒町」で、稽古に通う道場が「車坂」石見道場だったこともあり、思い込んでしまっていた。

火事のシーンを印象的に使う作家に、飯嶋和一さんがいる。『雷電本紀』では「行人坂の火事」が、『黄金旅風』では長崎の火事が、それぞれドラマティックに描かれている。

物語●旗本屋敷に火付けが続発し、炎上した二千五百石能勢家では当主と嫡男、行儀見習いの娘・お佳世が刺殺体で発見された。その家督を相続したのは、能勢家と縁もゆかりもない元長崎奉行の子息だった。火事で当主が亡くなり、縁もない旗本の次男や三男が養子に入り、跡を継ぐ出来事が何件も続いているという。事件を不審に思った南町奉行大岡忠相は、金杉惣三郎に探索の密命を下した……。

目次■序章/第一章 師走の刺客/第二章 老師の剣/第三章 飼坂峠の女/第四章 柳生籠り/第五章 相続請負人/解説・縄田一男

カバーデザイン:中原達治
解説:縄田一男

時代:享保八年(1723)十二月
場所:麹町十一丁目、富士見坂、大川端、車坂、数奇屋町、東湊一丁目、南八丁堀、善福寺門前町、伊勢、飼坂峠、奥津宿、鞍取峠、奈良、柳生の庄、鹿島、芝七軒町ほか

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読破日:05/11/02

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