密命 見参! 寒月霞斬り
(みつめい・けんざん・かんげつかすみぎり)
(さえきやすひで)
[剣豪]
★★★★☆
♪『闘牛士エル・コルドベス一九六九年の反乱』で第1回プレーボーイ・ドキュメント・ファイル大賞を受賞した著者の時代小説。学生時代に『闘牛士~』を読んだとき、ヘミングウェイの『陽はまた昇る』を思い出して、スペインにあこがれたものである。その著者と時代小説で出会えて感慨深い。
下級藩士が御家騒動に巻き込まれ、脱藩して江戸の市井で、日々の糧を何とか得ながら、密命を果たすべく東奔西走する、藤沢周平さんの『用心棒日月抄』を彷彿させる展開が楽しい。
主人公の属する豊後相良藩は、架空の藩だが佐伯藩をモデルにしているようだ。佐伯藩は、現在の大分県佐伯市を領地に、毛利高政が藩祖。八代藩主高標のときに、「佐伯文庫」と呼ばれる八万冊をほこる蔵書を持っていた。2万石の外様大名ということで、地味な存在だが、こんな形でもスポットが当たることはうれしい。
物語●六万冊の蔵書を誇る豊後相良藩に、御禁制の切支丹本所持の嫌疑がかけられた。直心影流の達人金杉惣三郎は、藩主から密命を受けて脱藩し、江戸へ。江戸で食べる手だてと身を潜める場所を必要とした惣三郎は、火事始末御用の手伝いをすることになる。…。
目次■火事始末御用/松造の恋/駆け込み者/抜け参り/渡り燕/龍虎、あい撃つ