(へんげ・こうたいよりあいいなしゅういぶん)
(さえきやすひで)
[伝奇]
★★★★
♪佐伯泰英さんの最新文庫書き下ろしシリーズ。遂にビッグスリー(講談社文庫、新潮文庫、文春文庫)の一角で文庫刊行! 「交代寄合伊那衆異聞」とサブタイトルが付く文庫書下ろしのシリーズ。交代寄合衆といういう耳慣れない旗本にスポットを当てたことで、興味津々。「交代寄合」とは時代小説であまり描かれたことがなく、耳慣れない言葉かもしれない。江戸時代に参勤交代を幕府より課せられたのは大名である。しかし、参勤交代を強いられた旗本が三十数家あった。その家柄を交代寄合衆と呼んだ。
交代寄合衆の発祥をみると、家格も身分も禄高もばらばらであった。松平家一門譜代系、旧織田・豊臣系、旧守護大名系などの名門と、大名の分家・一族系をまとめた「交代寄合表御礼(おもてごれい)衆」と、那須衆、美濃衆、伊那衆、三河衆の豪族系など、単に「交代寄合衆」と呼ばれる家に大きく分けられる。
主人公の本宮藤之助は、座光寺家流儀剣術の信濃一傳流の免許を許された不世出の剣者。佐伯さんの他のシリーズの主人公同様に、剣の素性は無名ながら、べらぼうに強い剣の名人という設定である。本書は、その第一弾で、主人公のお披露目といった要素がある。今後の展開が気になる時代小説シリーズの誕生である。
物語●交代寄合衆、座光寺家の家臣本宮藤之助は、信濃国伊那谷にある座光寺山吹領から、江戸に向けて休みもなくひたすら走り続けた。安政の大地震に江戸が見舞われたという情報が伊那谷にもたらされ、陣屋家老片桐朝和神無斎の命で江戸屋敷へ急行することになったのである。伊那から休みなしでほぼ二昼夜で駆けつけた江戸で、藤之助が見たものは…。
目次■第一章 初雪早走り/第二章 左京追跡/第三章 再建の槌音/第四章 北辰の剣/第五章 主殺し/解説 細谷正充