(いねむりいわねえどそうし きさらぎのたか)
(さえきやすひで)
[剣豪]
★★★★
♪久しぶりに、佐伯泰英さんの「居眠り磐音」シリーズを読む。『更衣ノ鷹』で止まっていた。読み進められなかったのは、シリーズ初の上下巻という長編のためではなく、十代将軍家治の世子・家基の鷹狩りを描いている巻のため。
実は少し前から「居眠り磐音」があまり楽しめないと感じていたのは、磐音が家基の剣術指南をつとめるなど、将軍即位を願う体制側の人間であることに拠っていた。確実に迫りくる悲劇のとき)家基の死)に立ち合うために読み進めなければならないことがなんともつらく、先延ばしにしてきた。
佐伯さんの創り出すヒーローはどんどん強くなり勝ち過ぎる傾向があるから、老中田沼意次のような強力な敵役を据えることは、物語を面白くするために必要不可欠なこと。とはいうものの、自分としては田沼意次の政治は寛政の改革よりもよほど改革的であり、松平定信より人物的にも数等ましという考えの人なので、意次を悪者にするのは好きではないが…。
下巻まで通して読んで、シリーズが新しい局面を迎えたことを知る。あとがきによると、作者は上巻と下巻を書く間に、イタリアのサルデニア島とフランスのコルシカ島を旅したという。作者としても重荷を持ってこの巻に臨んだわけで、リフレッシュして体調を整えたいという気持ちはよくわかる。なるほど、下巻の密度は濃い。
親友を上意討ちし、脱藩して始まった「居眠り磐音」シリーズ。悲劇をバネに読者を引き付け、主人公への共感を深めていく。家基の死がシリーズにとって大きな意味を持っていく。そして重石が取れた新展開の物語を続いて読んでみようと思った。
物語●佐々木磐音は、祖父高継の仇として、女武芸者の丸目歌女に執拗に狙われる。同じ頃、御典医桂川国瑞が西の丸への出入りを断られ、磐音も西の丸剣術指南を取り消される。家基の十一代将軍就任を反対する、老中田沼意次による、家基擁立派への揺さぶりである。そして、鷹狩りをする家基に危難が迫る…。
目次■第一章 お告げ/第二章 辰平、福岡入り/第三章 二の江村の放鷹/第四章 虚々実々/第五章 神田橋のお部屋様(以上上巻)/第一章 誘い音/第二章 田沼の貌/第三章 違イ剣/第四章 川越行き/第五章 死と生/あとがき(以上下巻)