子づれ兵法者
(こづれへいほうしゃ)
(さえしゅういち)
[短編]
★★★☆☆
♪7編とも、長い純文学作家時代に培った巧緻な文体と、武道の有段者としての角度からの描写が特徴。氏の長編『北の海明け』に通ずる「鼻くじりの庄兵衛」に出てくる間宮林蔵の描き方が面白い。「女鳶初纏」武器となる火消しの道具が新鮮。「鬼平」の影響で火盗改めというと、正義の味方ってイメージが強いが、こんなこともあったんだろうなあ。
物語●「子づれ兵法者」常陸国下館の浅山一伝流の道場主のもとへ、子連れの兵法者が訪れる。中西派一刀流のの平川軍太夫がわが子の命を賭けて立ち会いを所望する。「菖蒲の咲くとき」新発田藩士久米幸太郎は、四十年におよぶ仇討ちの旅で病を得た末に十五になる娘佐和と、ようやく牡鹿半島の祝田浜で仇敵と対峙する。「峠の伊之吉」追手に命を狙われる渡世人伊之吉は、三国峠の茶店で、身重の百姓女お菊と出会う。「鼻くじりの庄兵衛」(文化八年)いつも鼻ねじを腰に帯びている松前奉行所同心柴田庄兵衛は、いつも鼻ばかりくじっているために軽んじられていた。「猪丸残花剣」(寛政八年)穴間耕雲斎は、無心流殺人剣を一子相伝するため十二年ぶりに赤城山中へもどる。「女鳶初纏」(享保九年)女火消し緋牡丹のお竜は、火付けの冤罪で火盗改めに処刑された恋人の仇を討つために立ち上がる。「装腰綺譚」(文政三年)御家人矢嶋清三郎が、元掏摸のお仙の支えを受けて、侍を捨て根付師月虫として生まれ変わる。