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かくれさと苦界行

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かくれさと苦界行かくれさと苦界行
(かくれさとくがいこう)
隆慶一郎
(りゅうけいいちろう)
[伝奇]
★★★★☆☆ [再読]

歴史学者の網野善彦氏が死去された(2004年2月27日)というニュースを新聞で読み、久しぶりに隆さんの伝奇時代小説を読みたくなった。『吉原御免状』に始まる、隆慶一郎さんの伝奇時代小説は、「道々の輩」や「公界」など中世自由人たちにスポットをあてた、網野史学の影響を多大に受けている。

前作、『吉原御免状』(新潮文庫)を読んでいない方は、目次代わりに、巻頭に書かれた以下の〔登場人物〕紹介が役立つ。

〔登場人物〕
松永誠一郎=棄て児の身を二十五才まで肥後の山中で宮本武蔵の書状を持って訪れた江戸・吉原で裏柳生との争いに巻き込まれる。のち見込まれて吉原惣名主となり、西田屋三代目・庄司又左衛門を名乗る。二天一流の達人。実は後水尾院の遺児。
幻斎=吉原の主とも言うべき老人、実は死んだはずの吉原創始者・庄司甚右衛門。傀儡(くぐつ)たちの自由と平等の砦としての吉原を徳川家康の許しで作り上げ、家康の秘密が隠された〔神君御免状〕を所持している。唐剣の遣い手。
おしゃぶ=庄司甚右衛門の娘と西田屋甚之丞との間の娘。幼児期より未来を見抜く異能を持つ。誠一郎の妻。
野村玄意=吉原を守る戦闘集団・首代(くびだい)たちの束ね役。三浦屋四郎左衛門、山田屋三之丞、並木屋源左衛門らと共に、吉原の中心人物。
柳生宗冬=柳生家の当主。邪剣を振う弟義仙を憎み、誠一郎に好意を持って新陰流の奥義を伝える。
柳生義仙=柳生宗矩の六男で、宗冬の弟。吉原を取り潰すべく暗躍する裏柳生統帥だったが、誠一郎との闘いで右腕を切り落とされ、逼塞している。
酒井忠清=老中。〔御免状〕の存在を知り、権力に任せて奪い取ろうと義仙を操る。

隆さんが亡くなられた年(1989年)に、単行本で読んで以来ないので、15年ぶりぐらいで読み返してみた。当時は、ストーリーテリングの見事さを堪能しつつ、一気に読み切り、他の著作へ移って行ったために、面白かった以外の記憶は残っていなかった。改めてこの作品と向き合ってみると、単なる伝奇時代小説ではなく、人間愛(男女の愛や家族の愛ばかりでなく)の物語であることがよくわかり感動した。

敵役が酒井忠清でなければならなかったのかも今回初めて理解できた。縄田さんの解説によると、『吉原御免状』からはじまるこのシリーズは四部作になるところだったという。『かくれさと苦界行』が好評作の続編というだけではなく、一個の独立した作品としても傑作エンターテインメントになっている。このシリーズが、その圧倒的なスケールから、『指輪物語』のように、多くの読者を魅了するサーガノベルになったかもしれないと思うと、隆さんの短すぎる著作期間が今更ながらも、残念に思う。一連の隆さんの物語のアカデミックなバックボーンをなった、網野善彦氏の労作に感謝するとともに、その死を悼みたい。

物語●六年前に裏柳生の総帥の地位から転落した柳生義仙が、裏の人間の大方と一緒に柳生谷から消えたという知らせが、柳生宗冬から吉原にもたらされた。義仙は、老中首座酒井忠清と組んで吉原に圧力を加えて来た。その企みは、吉原五丁町の惣名主になった松永誠一郎によって潰え去ったかに思われたが…。義仙は右腕を失いながらも、六年間でさらにパワーアップして帰って来た。そして、『お館さま』と呼ばれる柳生の守護神も誠一郎の前に現われた…。

目次■目次なし

カバー:西のぼる
解説:縄田一男
時代:寛文三年(1663)旧暦六月晦日
場所:新吉原江戸町一丁目、品川宿、虎の門、鉄砲洲、江戸町二丁目、仲ノ町、裏三番町、鈴鹿峠、大坂新町ほか
(新潮文庫・629円・90/09/25第1刷・03/11/20第34刷・450P)
購入日:04/03/02
読破日:04/03/20

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『かくれさと苦界行』(隆慶一郎・新潮文庫)