喜知次
(きちじ)
乙川優三郎
(おとかわゆうざぶろう)
[武家]
★★★★☆☆
♪「藤沢周平氏を想起させる」がキャッチフレーズの時代小説大賞受賞作家の乙川さんの受賞後第一作。本人は、藤沢作品より山本周五郎作品の方を多数読んでいるらしい。文芸評論家の向井敏さんによると、藤沢さん自身は、デビュー当時山本周五郎の再来のようにいわれていたが、山本作品はあまり読んでいないためにそう呼ばれることに戸惑っていたらしい。なにやら「隔世遺伝」といったところか。
東北の中藩を舞台にしており、その藩の名前がはっきり出てこないあたり、藤沢さんの『風の果て』を彷彿させられ、どきどきする。
主人公小太郎とその友人の牛尾台助(郡奉行の次男)、鈴木猪平の三人の友情、妹・花哉へのほのかな愛情、理想を信じ藩政改革に賭けた熱情…。青春の熱さ、苦しさ、爽やかさを端正に描く快作。
読後に、大伴家持の歌とともにカバーの絵がじんわりと胸に来る。
物語●日野小太郎(後に弥平次)が十二歳のとき、藩の江戸屋敷が焼失し、そのおりに両親を亡くした六歳の花哉が日野家に養女として引き取られたきた。小太郎は、この新しくできた妹を、くるりとした大きな目に赤頬が、地元で獲れる魚、喜知次に似ていることから、思わず「喜知次」と呼んでしまう。
日野家は、東北の十二万石の中藩(おそらく磐城平藩・内藤家)の祐筆頭を務める、五百石の上士の家柄だった。
米の不作が続き、藩の江戸屋敷が焼失し、年貢の取りたてが厳しくなる中、小太郎の友人・鈴木猪平の父が、一揆の争乱の中で暗殺される事件が起こった…。
目次■菊の庭/暗い水/冬安居/茅花のころ/屡雨/二半/行く秋/白い月/黒雲/夜降ち/千鳥鳴く/末の露/本の雫/菊香る
カバー画:菱田春草「秋野美人」 所蔵・横山大観記念館 写真提供・大日本絵画
装幀:菊地信義
時代:明記されていないが、元文三年(1738年)
舞台:明記されていないが、磐城平藩(内藤家)が舞台。
(講談社・1700円・98/2/5第1刷・360P)
購入日:98/2/7
読破日:98/2/11
装幀:菊地信義
時代:明記されていないが、元文三年(1738年)
舞台:明記されていないが、磐城平藩(内藤家)が舞台。
(講談社・1700円・98/2/5第1刷・360P)
購入日:98/2/7
読破日:98/2/11