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武家用心集

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武家用心集武家用心集

(ぶけようじんしゅう)

乙川優三郎

(おとかわゆうざぶろう)
[短編]
★★★★☆

第10回中山義秀文学賞受賞作。表紙は江戸小紋というらしいが、「家内安全」という文字が入っている。武士の(家の)生活や生き方をテーマに描いた武家ものとか、士道小説という。藤沢周平さんの『蝉しぐれ』や『たそがれ清兵衛』などがまず思い浮かぶ。

『武家用心集』は、藩内の政争や肉親のしがらみ、世間のうわさや嫉妬、身にかかる諸々の中、生きる上で一番大切なのは何かを問いかける、8編の短篇を収録している。

乙川さんが第7回時代小説大賞を受賞されたころ、「第二の藤沢周平」とか評されることが多かった。そのときは藤沢さんとは違う別の資質を強く感じたが、今回は『田蔵田半右衛門』や『九月の瓜』『邯鄲』など、不思議と、読み進めていくうちに、藤沢さんの世界とオーバーラップするものを感じている。

かと思うと、「しずれの音」や「うつしみ」、「磯波」のように女性を主人公にした作品では、藤沢さんとはまったく違う個性や作風を感じる。

藤沢さんが下級藩士の視点から物語を描くことが多いのに対して、乙川さんは女性の視点から描いた作品も少なくない。そうした作品では、男中心で、家というものが拘束力をもった江戸時代という特異な環境下で、悩み葛藤し、ときにはもがき苦しみながらも、自身の生き方を真剣に考える凛とした女性が登場する。

けっして明朗快活でヒーローが活躍するような物語ではないが、主人公たちのもつ、冬の薄日のようなそこはかとないポジティブさ、雪を載せた枝のようなしなやかさに、読後に何ともいえない快い余韻を残す珠玉の作品集である。

ブログ◆
2006-02-22 武家の女性を描いた時代小説
2006-02-21 乙川優三郎さんの武家小説

物語●
「田蔵田半右衛門]」倉田半右衛門は、八年前の三十歳のときに、ある事件に巻き込まれて処分を受けたのをきっかけに、人との接触を避ける法として、釣りを嗜むようになった……。
「しずれの音」雪曇りの一日、寿々は病の母を見舞うと、嫂に見送られて実家を後にした。母は中風で倒れたわけでもないのに手足が不自由になっていて、その病は会うたびにすすんでいった……。
「九月の瓜」五十二歳になる藩で勘定奉行の宇野太左衛門は、姪の祝言があって、久しぶりに妹の婚家を訪ねた……。
「邯鄲」津島輔四郎は、新田普請奉行の添役を務めていて、役目柄、家を空ける日が多かった。三十九石の家は、妻を離縁してから女中のあまと二人暮らしだった……。
「うつしみ」夫の小安平次郎が不正の嫌疑がかけられて大目付に捕縛されてからもうすぐ一カ月になる。詳しいことが何も伝わってこない不安と周囲のわずらわしさから、松枝は実家の菩提寺の墓参りにを行った……。
「向椿山」岩佐庄次郎は、江戸に医学を学ぶために遊学していて五年ぶりに郷里に帰ってきた。彼を待ち受けていたものは……。
「磯波」数えで三十二になる奈津が、浜辺の村に暮らし始めて十年になる。村の娘たちに諸芸を教えて暮らす奈津のもとへ、妹の五月が訪れた……。
「梅雨のなごり」隣町の肴屋でようやく蜆を見つけて買い求めると、利枝はほっとした。蜆は、朝晩二度に分けて父の武兵衛に供するために買うのだった。勘定方に勤める父は毎晩帰りが遅く、この三月ほど休みらしい休みをとっていなかった。過労のために口数が減り、顔色も悪かった。母が訊ねても、父はただ忙しいと答えるだけで、なぜ忙しいのかは語ろうとしなかった……。

目次■田蔵田半右衛門|しずれの音|九月の瓜|邯鄲|うつしみ|向椿山|磯波|梅雨のなごり|解説 島内景二

カバー地模様:江戸小紋「家内安全」
AD:四ッ谷憲二
解説:島内景二

時代:いずれの短篇も明記されず

(集英社文庫・543円・06/1/25第1刷・303P)
購入日:06/01/26
読破日:05/02/22

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