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じぶくり伝兵衛 重蔵始末(二)

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じぶくり伝兵衛 重蔵始末(二)じぶくり伝兵衛 重蔵始末(二)

(じぶくりでんべい・じゅうぞうしまつ2)

逢坂剛

(おうさかごう)
[捕物]
★★★★☆

『カディスの赤い星』などで知られる直木賞作家・逢坂さんの時代小説第二弾。間宮林蔵、最上徳内と並ぶ蝦夷地探検家、近藤重蔵に着目したところが面白い。火盗改の長官というと、鬼平こと長谷川平蔵が有名だが、本役の平蔵と同時期に加役として火盗改の頭に松平左金吾がいた。老中・松平越中守定信の遠縁筋で名門の出で、庶民派の平蔵に比べて評判はよくなかったらしい。第四話の「火札小僧」の章で、当時の北町奉行初鹿野河内守が病没後の後任をめぐる噂話が記されていた。

同心が探索の手伝いをさせている手先(岡っ引など)の中には、自分の立場を利用して悪事を働く者が少なくなかったことから、手先の使用を禁じる法令がたびたび出されていたが、南北両町奉行所ではこの旧弊を必要悪として、手先を使うことを黙認していた。火盗改でも長谷川平蔵組はそうした手先や密偵を巧みに操ることで大いに効果を上げた。ただ一人、松平左金吾だけが定信の指示を守って、配下の者が手先を使うことを一切認めていなかった。

『じぶくり伝兵衛』では、そんな松平左金吾の組で、きわめてユニークで傲岸不遜、大胆不敵な重蔵のキャラクターが描いていて面白い。重蔵の部下の同心橋場余一郎や若党根岸団平、山碇部屋の力士鬼ヶ嶽谷衛門、元力士で一膳飯屋〈はりま〉の主人為吉とその女房おえんなど、登場人物たちが1作目よりも、物語の世界に溶け込みなじんできたように思える。重蔵の好きな相撲の話が随所に出てきて、とくに第二話「吹上繚乱」では、十一代将軍家斉の上覧角力(すもう)が描かれていて興味深い。

この作品では、犯人捕縛で見せる推理洞察力や武芸ばかりでなく、林子平の『海国兵談』の解釈に見せる知識面にもスポットが当たり、新しい重蔵像が描かれていて、これからも追っていきたい歴史上の人物である。解説によると、逢坂さんのライフワークになる作品らしいので、今後の展開も期待できそうだ。

タイトルにある「じぶくる」とは、屁理屈をこねたり、ぐずぐず文句をいったりすることを指す。口うるさいといったところか。

物語●「吉岡佐市の面目」火盗改の同心橋場余一郎と近藤重蔵の若党根岸団平は市中見回り中に、三味線堀で、火盗改長谷川組の与力吉岡佐市が町人に突き飛ばされてどぶ川へ落ちるのを目撃した…。「吹上繚乱」江戸城内で将軍家斉の上覧による角力(すもう)が開催されることになり、重蔵も組頭松平左金吾のお供で同席することになった…。「じぶくり伝兵衛」重蔵、余一郎、団平は、柳原土手で、深編笠の侍と雲水笠をかぶって黒い棒を手にした願人坊主風の男が喧嘩をしているのに出くわした…。「火札小僧」年末に付け火を予測する脅し文、火札が御府内のあちこちに張られるという事件が起こり、元日早々、余一郎と団平は深夜の見回りをすことになった…。「星買い六助」神田明神の境内で勧進角力が行われ、非番の重蔵らは角力見物をした。贔屓の力士鬼ヶ嶽の負け方に不審を覚えた重蔵は、打ち出しの後、鬼ヶ嶽に事情を聞いた…。

目次■第一話 吉岡佐市の面目|第二話 吹上繚乱|第三話 じぶくり伝兵衛|第四話 火札小僧|第五話 星買い六助|解説 清原康正

カバー装画:中一弥
カバーデザイン:多田和博
解説:清原康正

時代:寛政三年(1791)四月
場所:三味線堀の川端、本郷元町三念寺門前、下谷小島町、市ヶ谷御門大番所、左内坂、表神保小路、鶏声ヶ窪、柳原土手、葺屋町、本郷森川宿、湯島聖堂裏手、今井三谷町、胸突坂、千住、神田明神、上布田宿ほか

(講談社文庫・590円・05/09/15第1刷・382P)
購入日:05/09/22
読破日:05/10/15

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