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喧嘩名人 剣客太平記

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喧嘩名人 剣客太平記
喧嘩名人 剣客太平記

(けんかめいじん けんかくたいへいき)

岡本さとる

(おかもとさとる)
[剣豪]
★★★★

若き剣術道場主の峡竜蔵が人情味豊かに痛快な活躍ぶりを見せる人気シリーズの第五弾。

 三十歳となった峡竜蔵の剣には円熟味が増してきた。
 ひたすら前に出る剛剣にして攻撃一偏の剣に、相手の技を見切り技が尽きたところを打つ引き技が加わった。
 半年ほど前は三本に一本くらいは竜蔵に技を決めることができた裕一郎もまるで歯が立たず、
「先生はいかにして新たな境地に足を踏み入れたのです……」
 稽古を終えた後、真顔で訊ねたものである。
「なに、手を抜くことを覚えたのだよ」
 
(『喧嘩名人』P.8より)

主人公竜蔵の成長ぶりとともに、洒脱さを加わっていく感じが出ている。

「おぬしはいかさま道場の師範代には惜しい男だ……」
 と、心から賛えてもくれた。
 太兵衛との仕合を通じて亮五郎は、剣術とは人と人とが殺し合うだけのものではなく、己が道をただひたすら求めて生きていくためのひとつの手段であることを思い知らされたのである。

(『喧嘩名人』P.30より)

「剣客太平記」シリーズが人気なのは、日ごろより剣に命を懸けた者たちの世界を描きながらも、このような人へのやさしさ、穏やかで居心地のよい、癒しの要素を持っているからでもある。

「それで旦那は何と……」
「心配するな、お前さんの倅は真の意味での喧嘩名人だ。なあに、おれは浜の清兵衛の親方とは身内も同じだ。その兄弟分の倅を殺させやしねえ。まあ黙って見ておきな……。そう言って帰したのさ」
 
(『喧嘩名人』P.143より)

どこまでも男気のある、竜蔵。

 竜蔵は食い入るように刀を見た。
「これは……」
「はい、村正です……」
 高梨が静かに答えた。
 黒く煤けてしまった茎の銘の部分を読み取ると、勢州村正の作であることがわかる。
「いかにも野村玄舟の差料に相応しゅうござる」

(『喧嘩名人』P.162より)

村正は、徳川家康の祖父・松平清康、父の松平広忠が殺害された時に使われた上に、嫡子・信康に対して謀叛の疑いがあるとして、切腹させよという織田信長の厳命に従い、これを介錯させた家康の家臣・服部正成の佩刀もまた村正であったという伝承から、徳川家にとって不吉とされている刀である。

時代小説で村正が出てくると、上記のような曰くから、事件が展開する。今回も、竜蔵の昔馴染みで、焼死したとみなされた男の差料が村正だったという。

さて、シリーズも5作目ともなると、主人公の脇を固める登場人物たちにもスポットが当たり、個性を発揮して、自在な活躍ぶりを示すようになる。第四話の「算法少女」(遠藤寛子さんの作品を想起させる素敵なタイトルである)では、竜蔵の一番弟子の竹中庄太夫がクローズアップされて、これまで描かれなかった家族の話が繰り広げられる。

主な登場人物
峡竜蔵:三田二丁目に剣術道場を構える道場主
竹中庄太夫:竜蔵の一番弟子
神森新吾:竜蔵の二番弟子。貧乏御家人の子
網結(あみすき)の半次:目明しの親分
佐原信濃守:公儀大目付
眞壁清十郎:信濃守の家臣
浜の清兵衛:芝神明の見世物小屋“濱清”の主で、芝界隈に顔を利かす香具師の元締
安:清兵衛の子分
中川裕一郎:芝愛宕下の長沼正兵衛道場の門人
赤石郡司兵衛:竜蔵の兄弟子
沢村直人:赤石郡司兵衛道場の高弟
千葉啓之介:三千石の寄合・千葉和泉守景季の次男坊
原口一風斎:目白台の馬庭念流道場の師範
水岡泰介:播州竜野脇坂家の家臣
横路勘蔵:関口道場師範代
江田亮五郎:馬庭念流の遣い手で元やくざの用心棒
渡瀬常太郎:貧乏御家人
津山克太郎:竜蔵に鬼退治依頼する武士
樋口十郎兵衛定雄:馬庭念流の師範
竹山国蔵:馬庭念流の師範
お才:竜蔵の昔なじみの常磐津の師匠
権太:芝田町二丁目の居酒屋“ごんた”の主

真砂屋由五郎:高輪牛町の口入屋
野州屋鮫八:白金台の金貸し
万吉:芝田町九丁目の駕籠屋“駕籠十”の親方
繁造:車町の旅籠“くるまや”の主人で侠客
お梶:万吉の母

野村玄舟:押込みを行う浪人者
大曾根暉三:竜蔵と昔馴染みの不良浪人
酒井左衛門尉忠徳:出羽庄内十四万石の大名
高梨勇作:酒田町奉行所同心
松宮儀八郎:酒田町奉行
金子誠四郎:酒田町奉行所同心で、稲妻流の遣い手
太助:廻船問屋の奉公人の子ども
お浪:矢場の女将
梅次:目明かし
宮前勾当:大坂出身の盲人で音曲の名人
中根勘十郎:稲妻流の剣術師範

岸本百合:和算家で、深川西町に学問所を開く
竹中緑:庄太夫の娘
松栄:緑の母
仁八:相撲崩れの破落戸
森原綾:竜蔵の兄弟子森原太兵衛の娘
志津:竜蔵の母
中原大樹:志津の父で竜蔵の祖父。国学の学問所を開いている
北原秋之助:北町奉行所同心

物語●
「範を継ぐ者」三田二丁目に、直心影流の剣術道場を構える峡竜蔵のもとに、主の名を明かさぬ武士が、悪鬼の如く邪剣を遣う男を相手に木太刀で仕合をして相手を懲らしめてくれと依頼に現れる。謝礼は二十五両だという、その胡散臭い依頼を竜蔵は断り、武士を追い返すが…。

「喧嘩名人」竜蔵はお才から頼まれた喧嘩の仲裁をしたが、その姿を見ていた駕籠屋の親方・万吉から会って喧嘩の極意を伝授してもらいたいという頼みごとがあった…。

「さらば悪友」羽州庄内酒田で押込みを働いた末に焼死した浪人者が竜蔵の昔馴染みだと語っていたことから、大目付・佐原信濃守の依頼で、事件の真相を探るために、信濃守の側用人眞壁清十郎と酒田にやってきた…。

「算法少女」竜蔵の一番弟子の竹中庄太夫の別れて暮らしていた娘が大坂から、江戸の和算塾に入るために江戸にやってきた…。

目次■第一話 範を継ぐ者/第二話 喧嘩名人/第三話 さらば悪友/第四話 算法少女

装画:浅野隆広
装幀:五十嵐徹(芦澤泰偉事務所)
時代:享和元年(1801)春
場所:三田二丁目、下谷車坂、目白台、三富新田、目白不動門前、真性寺、染井稲荷前、白金明源院裏、金杉橋北詰、芝田町九丁目、車町、酒田、三田同朋町、三十三間堂、深川西町、新高橋、ほか
(角川春樹事務所・ハルキ時代小説文庫・600円・2012/09/18・第1刷・298P)
入手日:2012/12/10
読破日:2013/01/29

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