旗本絵師描留め帳 蛍火の怪
(はたもとえしかきとめちょう・ほたるびのかい)
小笠原京
(おがさわらきょう)
[捕物]
★★★☆☆
♪この文庫の元版は『旗本絵師藤村新三郎』(1995年、講談社刊)。あとがきによると、執筆中にハプニングめいたことがあり、意に染まぬところが多かったので、文庫化にともない大幅に書き改め、改題したということ。
『瑠璃菊の女』(福武文庫)、『寒桜の恋』(ベネッセ)に続く、「旗本絵師シリーズ」の第3弾。作者の小笠原京(本名・小笠原恭子)さんは、武蔵大学教授で、専攻は中近世日本文学・日本演劇史(歌舞伎・能狂言)。『かぶきの誕生』(明治書院)、『出雲のおくに』(中公新書)、『都市と劇場』(平凡社選書)などの著作がある。
『銭形平次・青春篇』(講談社大衆文学館)に寄せたエッセイによると、小さい頃に読んだ「坊ちゃん」と「銭形平次」の影響を受けて出来上がったのが、このシリーズとのこと。確かにそう言われれば、そんな個所も見られる。
主人公藤村新三郎は、旗本三男坊ながら、菱川師宣秘蔵の人気下絵師で、小僧の四郎吉と二人の借家住まい。頭も切れれば剣も立つ、手裏剣の腕は天下無双。曲者を見つけると、穂先を膠で固め、軸に鉛を仕込んで重みをつけた筆を、銭形平次ばりに投げるのである。
このヒーローがもっともユニークなのは、時代小説史上最高の伊達者であること。〔憲法色に藍色と薄玉子で大きくかきつばたを染め抜いた単衣の着流し〕〔白地に露草色と水色で魚形文を染めた、たいそう目立つ単衣〕〔うす鼠の地に柳茶で裾と背に大きく稲妻を染め、銀糸の雨を降らせた男伊達好みの文様の単衣〕など、どのくらいおしゃれなのか描写を読んでもピンと来ないのが悔しいところ。
物語●「蛍火の怪」手裏剣の師である知新流の達人・沢井権太夫を訪れた帰りに、青山播磨屋敷の近くで、新三郎は、青い火の玉を見たあとに、喉元を掻き切られて倒れている若い侍を発見した…。「井戸替の変」新三郎の家に何者かが禁制の品らしい銀細工の鎖を投げ込んだ…。「夕顔の縁」王子村で養生している乳母代わりの老女を見舞った帰り、新三郎は夕顔を這わせた垣を低くめぐらせた家を見つけた…。
目次■蛍火の怪|井戸替の変|夕顔の縁|文庫