軍鶏侍
(しゃもざむらい)
野口卓
(のぐちたく)
[剣豪]
★★★★☆☆
♪南国の園瀬藩(架空)を舞台に、藩内の政争に巻き込まれる隠居侍を主人公とした時代小説。藤沢周平さんの「海坂藩(うなさかはん)」ものを想起させてくれて、大いに楽しめた。
タイトルにあるとおり、軍鶏の飼育にはまってしまった、中年男・岩倉源太夫が主人公。軍鶏の生態や飼育の様子などが、詳細に描かれて興味深い。とくに、秘剣を編み出すきっかけともなる闘鶏シーンが圧巻。物語は連作形式で展開するが、その構成も巧みだ。
一話め(表題作)では、江戸修行時代の親友秋山精十郎が登場する。第二話の「沈める鐘」では、やもめの源太夫に嫁取り話が出る。第三話では、主人公の弟子になる少年・大村圭二郎にスポットを当て、圭二郎のひと夏の経験を描く。四話ではユーモアを味わえ、最終話では剣術遣いの業のようなものを描き、全体を通して魅力的なヒーローを生み出している。
視覚的イメージが広がるような情景描写と、闊達とした人物造形、巧みに構成された物語で、新人の作品とは思えない質の高さを感じる。次回作が楽しみな時代小説家の登場である。
物語●岩倉源太夫は、江戸での修行中に闘鶏を見て「蹴殺し」という秘剣を編み出した剣の達人。人間関係のわずらわしさから、三十九歳の時に、隠居と道場開きを藩に願い出た。隠居の許しは簡単におりたが、道場開きの願いは許可されなかった。その源太夫が、筆頭家老の稲川八郎兵衛から呼び出しを受け、夜分に稲川の屋敷を訪れる…。
目次■軍鶏侍|沈める鐘|夏の終わり|ちと、つらい|蹴殺し|解説 縄田一男