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猫の椀

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猫の椀猫の椀
(ねこのわん)
野口卓
(のぐちたく)
[短編]
★★★☆☆

藤沢周平さんの武家小説(海坂藩もの)を想起させる『軍鶏侍』『獺祭 軍鶏侍』が面白くて注目している野口卓さんの最新文庫。表題作はじめ五編を収録した短編時代小説集。短編ということもあり、『軍鶏侍』とはまったく異なる味を持っている。

「猫の椀」唯一の理解者で、椀の発注者である良兼の死を知り、大いに落胆した漆職人兼七が、ふと迷い込んだ酒食の店。そこで体験する不思議な出来事を描くファンタジー小説。

「糸遊」伊奈七とおのぶのおしどり夫婦を見舞った危機を描く捕物サスペンス。

「閻魔堂の見える所で」噺家出身の追剥という設定が面白い。一筋縄ではいかないピカレスク小説。

「えくぼ」視点の違いの妙を描く短編。

「幻祭夢譚」若者が夢見るお伽話。

時代小説の形を借りながらも、時代が明記されず、場所もあいまいにされていて、なにやら新作落語に通じるところがある作品集。落語に造詣が深い著者らしさが出ている。そう思い始めると、「ねこのわん」ってタイトルも、シャレている。

主な登場人物
「猫の椀」
兼七:漆職人
良兼:鼈甲商渥美屋の大旦那
酒食の店「静の家」の女将
お玉:女将の姪
茂作:兼七の伯父で下野に住む塗師
きく:兼七の女房
春川左衛門尉正時:三千石の旗本
三池三太夫:春川家の御用人

「糸遊」
伊奈七:組紐職人
おのぶ:伊奈七の女房
おはや:伊奈七の妹
伸六:岡っ引
朽木勘三郎:八丁堀の同心
おもん:料理屋のお運び

「閻魔堂の見える所で」
佐太郎:若者
仏の重藤:追剥
和尚の浪蔵:佐太郎の友達
小吉:日本橋室町の蝋燭問屋垂水屋の番頭
うわばみ鬼左衛門:追剥の親玉

「えくぼ」
星川屋邦衛:紙問屋の主
きよ:邦衛の女房
邦太郎:邦衛の息子
喜八:星川屋の番頭
二三郎:星川屋の手代
生田屋征兵衛:江戸屈指の材木商
弥平:紙の仲買人
卓蔵:紙の仲買人

「幻祭夢譚」
英心:旅の僧
賢心:京の寺の僧で、英心の師
四条の呉服屋の女主
初音:猟師の娘
五郎次:猟師
白髪の老婆
村長

物語●「猫の椀」漆職人の兼七は、渥美屋隠居の良兼が亡くなられたと聞き呆然とする。良兼に注文されていた椀ができて、五年ぶりの来訪だった。落胆した兼七は町を歩き回った末に、注意しても見逃してしまいそうな小さな酒食の店「静の家」にたどりついた…。

「糸遊」伊奈七は、組紐職人の命とも言える右手の人差し指を怪我した。生計を助けるために働きに出た女房のおのぶは、勤め先の料理屋でおもんという朋輩と親しくなった…。

「閻魔堂の見える所で」山の麓で谷川沿いと山裾を巡る道に分かれる、分岐点に古びた閻魔堂が建てられていた。お堂の前で若い男が二人、半刻近くも話しこみ、その末に二人は手を振って右と左に分かれて歩き出した。谷川沿いの道を選んだ男・佐太郎は、やがて「仏の重藤」と名乗る追剥と出会った…。

「えくぼ」紙を商う星川屋邦衛は、同業者に得意先を奪われて、絶体絶命のピンチに、江戸で屈指の材木商生田屋征兵衛から援助の申し出を受ける。征兵衛は邦衛を恩人と言うが、邦衛にはまったく心当たりがなかった…。

「幻祭夢譚」師の手紙を託されて平泉に向かう僧の英心は、村人に街道を行くと、追剥に遭うかもしれないといわれて、間道を進んだ。しかし、人と行き交わずに道に迷ったかと不安が募る。やがて、灯が目に入り、藁葺きの陋屋に泊めてもらうことになる。その家は、若い娘初音が一人で留守番をしていた…。

目次■猫の椀|糸遊(かげろう)|閻魔堂の見える所で|えくぼ|幻祭夢譚(まぼろしのまつりゆめものがたり)

カバーデザイン:芦澤泰偉
カバーイラスト:卯月みゆき
解説:縄田一男
時代:「猫の椀」「糸遊」「閻魔堂の見える所で」「えくぼ」「幻祭夢譚」いずれも明示されず。
場所:「猫の椀」通旅籠町、四谷御門近く。「糸遊」神田相生町、蛤町、代々木村。「閻魔堂の見える所で」追剥街道。「えくぼ」明記されず。「幻祭夢譚」奥羽の寒村、ほか
(祥伝社・祥伝社文庫・619円・2012/03/20第1刷・304P)
入手日:2012/03/21
読破日:2012/04/12

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