(かぜのやど・かわばたどうしんごようひかえ)
(にしむらぼう)
[捕物]
★★★☆☆☆
♪てへんに口と書いて、ひかえと読むことを初めて知った。江戸の四季に、風俗、風物を感じる人情捕物帳。
『半七捕物帳』のような初期の捕物帳を彷彿させる雑駁で卑俗的な文体で、昔に書かれた作品かと思ったら、意外なことに『小説宝石』(平成13年6月~平成14年12月号)に連載されたものという。最初は、読みづらい感じがしたが、頻出する江戸言葉や江戸っ子のテンポに慣れると、逆に江戸時代を身近に感じることができた。
紺看板、蜻蛉髪、内羅、チチロ虫、十二文屋など、初めて聞くような言葉が随所に織り交ぜられていて面白い。
主人公は、南町奉行所同心、秋山五六郎で、二十七歳と若い。若さと経験不足からときには失敗もする。その五六郎をフォローするのが、「めかりの半次」と「釘笊お富」で、そのほかにも五六郎の妻、おふう(楓)とその両親の榊与左衛門とお彩、五六郎の実父で隠居して妾と同居する三四郎といった面々がシリーズにそこはかとないおかしさと奥行きを与えている。
江戸風俗を味わえる正統派の捕物帳として、味わいたい一冊。
物語●「おまんが紅」質屋の主人から妾とその情夫に傷をつけられたうえで、三両恐喝されたと訴えられて、逃げた二人の足どりを五六郎らは追った二人は、神隠しの話を聞いた…。「鍋を被る女」五六郎は、捕物を失敗し、憂さ晴らしに奉行根岸肥前守の内与力の青江千之助と酒を痛飲し、二日酔いだった…。「さすらへの月」五六郎は、亡父の具足金を盗まれた船宿の女主人と知り合い、恋焦がれるようになった…。「帰る雁」五六郎は、木綿店から木綿の反が消えたこと、北日影町河岸から釣り船が盗まれたことと盗犯が続き、日影町の自身番屋に詰め切りだった…。「風の宿」比丘尼のおときは、亭主殺しと盗みの疑いで南茅場町の大番屋につれ込まれ、五六郎の取調べを受けていた…。
目次■おまんが紅|鍋を被る女|さすらへの月|帰る雁|風の宿|解説 小梛治宣