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風炎の海

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風炎の海風炎の海
(ふうえんのうみ)
二宮隆雄
(にのみやたかお)
[海洋]
★★★★☆☆

「海の日」が近づいたせいか、無性に海洋ものを読みたくなった。実にタイムリーなことに二宮隆雄さんの新作が刊行された。タイトルの「風炎」とは、フェーン現象のことらしい。

この本の主人公の重吉は、漂流を機会に西欧の文化・魂に触れることになるが、外国人たちとの心温まる交流が感動的。本当の意味で、日本人の国際人の第一号かもしれない。当時としては珍しい、彼の漂流時代の前向きでタフな言動が物語を盛り上げている。

船頭重吉は作者の郷里の英雄でもあり、作者の史観を仮託する人物でもあった。

重吉は涙をぬぐった。徳川幕府は大船の建造を禁じ、あまつさえ甲板を水密に張ることを許さず、危険な一本帆柱での航海を強いてきた。そのためにどれだけの船乗りが難船し、海の藻屑と消えたことか……。
だが重吉の怒りはそのことよりも、いまは広い世界に目を向けない徳川幕府への怒りに変わっていた。百姓が苦労して作った米を居食いして威張りちらし、小さいときから学問をつづけた侍ならば、せめて自分が住む地球のことくらい、わかっていてもよさそうである。
<だがあやつらはしょせん穀つぶしなんじゃ……>
(p.214)
何やら現在の日本のようでもあり、辛い。

◆主な登場人物
重吉:督乗丸の船頭
お菊:子浦の船宿の下女
孫三郎:督乗丸の賄方(事務長)
房次郎:督乗丸の最年少の炊
藤助:督乗丸の舵取り(操舵手)
音吉:伊豆子浦出身の督乗丸の船乗り
七兵衛:半田村出身一向宗信者の督乗丸の船乗り
安兵衛:吝嗇で陰険な督乗丸の船乗り
半兵衛:督乗丸の船乗り
ピケット:フォレスタ号の船長
ムセカ:ショショーニ族のガイド
サカジャウィア:インディアンの女性
アレクサンドル・バラノフ:ロシア・アメリカ会社の総支配人
イリヤ・ルダーコフ:カムチャッカ長官代理の海軍大尉
高田屋嘉兵衛:淡路島出身の豪商

物語●文化十年十月、尾張・半田村の船頭重吉は、千石船・督乗丸で出港したが、遠州灘で嵐に見舞われる…。当時の徳川幕府は、船乗りを自由に海外に雄飛させないために鎖国して、「帆柱は一本であること」「甲板の水密はならず」という勝手な幕法を船乗りに押しつけた。一本帆柱には一枚の大きな帆しか張れない。風が強くなれば大きな帆は危険である。水密でない千石船の甲板は、大海に浮かべた盥と同じである。そのため、船乗りたちは危険な航海を強いられて海難事故は続出したのだ。

目次■第一章 漂流/第二章 ピケット船長/第三章 カムチャッカ/第四章 帰国/第五章 尾張国

装画:宮城音蔵<銹びる>船
装幀:松本泰行
時代:文化十年(1813)年
場所:伊豆・子浦、太平洋、ノバスコシア、ロングビュー、アラスカ・シトカほか(実業之日本社・1,600円・98/06/25第1刷・310P)
購入日:98/06/28
読破日:98/07/11

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