一十郎とお蘭さま
(いちじゅうろうとおらんさま)
南條範夫
(なんじょうのりお)
[幕末]
★★★★☆☆
♪裏表紙の「明治維新前後・激動の世に展開する酷薄な美神と剣士の奇妙な物語。円熟の筆が冴える時代ロマン長篇」という作品紹介コピーに惹かれて手に取る。
藩主の美貌の側室・お蘭の方に忠誠を誓う剣士、と聞くと、ロマンあふれる伝奇小説を期待するが、南條さんはそんな浅はかな読者を見事に裏切る。幕末から明治へ、激動の時代に翻弄されるヒロイン・お蘭の方に、魅入られ、一途に仕える男・一十郎の、究極の愛の物語である。時代小説の姿を借りた純文学である。封建時代の主従関係と純愛とエロティズム、稚ないセンチメンタリズムが渾然一体となり、不思議な味を醸し出している快作だ。
歴史にほとんど登場しない越後の三万石の小藩・村松藩を舞台にしているのが、新潟県人にはうれしいところ。とはいえ、村松を訪れたことはないが…。
物語●越後の小藩・村松藩の下級武士、欅一十郎(けやきいちじゅうろう)は、江戸藩邸では、けやきの盆栽づくりで有名になっていた。一十郎は、桃井春蔵門下で剣を磨き、その後、機迅流の依田新八郎秀政の門に移り、剣の達人としても知る人ぞ知るであった。その一十郎は、国許の村松に戻り、藩主堀右京亮直賀の前で、機迅流の秘術「畳返し」を披露することになった…。
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