徳川御三卿 上・下
(とくがわごさんきょう・じょうげ)
(なんばらみきお)
[武家]
★★★☆☆
♪御三卿(田安家・一橋家・清水家)というと、江戸後期においては重要な役割にあった割に、その創設の頃はあまり時代小説に描かれることがなかった。そのために、その創設の経緯や役割、力、影響などに関心を持つことがなかった。その意味でいうとこの作品は、非常に重要だ。
御三卿の創設が水戸の勤皇思想の高まりにつながっていくこと、やがて一橋家の血が水戸家に入り、その子が一橋家を継ぎ最後の将軍になる皮肉。なかなか深い。
この作品でもう一つ貴重なことは、竹内式部(たけのうちしきぶ)による宝暦事変を扱っていることがあげられる。
とはいえ、作者の持ち味である、映画的なエンターテインメント性は失われていない。一橋宗尹が平松小五郎と称して市井で探索活動を行うのは、暴れ将軍っぽくて面白い。
物語●八代将軍吉宗は、長男家重を将軍位につけた。さらに病弱な家重の万一の場合に備え、息子たちをもって、田安家、一橋家の御両卿を創設した。以後将軍に嗣子なきときは御両卿家から将軍を出すことに定めた。だが、吉宗の絶大な権力を持って行われたこれは、御三家の格下げに他ならなかった。自藩の存亡を賭けて、水戸家、尾張家が動き出す。
一方、京では、竹内式部の尊皇思想が少壮公家を中心に広まり、若き帝の心もとらえようとしていた…。
目次■吉兆屋/御両卿/隠れ家/水戸勤皇党/京都/召喚/御殿女中/虚弱将軍/朝駆け/青綺門院(以上上巻)|尾行/梅林にて/女色/中間奉公/桃園天皇/連判状/明神下/天魔殺法/陰謀/奉答書/宝暦事変/解説 菊池仁(以上下巻)