札差平十郎
(ふださしへいじゅうろう)
(なんばらみきお)
[経済]
★★★☆☆
♪札差というと、豪奢の限りを尽くしたり、貧乏旗本・御家人をいじめる、悪者のイメージが強いが、珍しくその札差をヒーローにした痛快系の時代小説。それまで札差と聞くと、豪商のイメージがあったが、この作品を読んで、初期の頃は、旗本や御家人の使いっぱしりのような存在で、日々の生計にも困った貧しい時代があったことを知り、新鮮な思いにとらわれた。
主人公の札差平十郎が担保を確認したり、身元調査をあまりせずに、安易にお金を用立てるのがちょっと不思議だったが、その分、事件が起こって楽しめたとも言える。しかもお金の力ばかりでなくて剣の力で解決するところが新味。
江戸の経済のシステムが垣間見れて興味深い時代小説である。
物語●平十郎は、札差の仕事を嫌い、家を飛び出して剣術道場に住みこみ、師範代になっていたが、父が病気で倒れて隠居したために、家に戻り札差辰巳屋をついだ。その辰巳屋に蔵宿師・妙見の政次郎がやってきた。辰巳屋の有数の札旦那で剣術の達人として名高い旗本・二宮陣之助のために、三百両の借用を求めてきたのだった…。
目次■蔵宿師/蔵前千両箱/屑米千石/あばれ札差/蔵前太鼓/本所回向院裏/命十両/蔵前閻魔堂/決闘小栗坂/解説 菊池仁