(ごうのけん・けんごう・ひらやまこうぞう)
(ながいよしお)
[剣豪]
★★★☆☆☆
♪幕臣・平山行蔵は、泰平の世が続く、十一代将軍家斉の時代に、武士の心を忘れぬ壮烈な鍛錬を続けたことで知られる、剣豪でもある。奇矯な人物として描かれることも多い、平山行蔵を主人公にした時代小説。
平山行蔵の奇人ぶりが物語仕立てで描かれていて面白い。とくにその戦いぶりが幕臣という身分や世間体を超越していてすごい。作品中でも、林道場との抗争や清水道場との遺恨などが描かれていて痛快さを感じる。元相撲取り満天山と平山の素手での戦いは、PRIDEなどに通じる異種格闘技といった趣きがあって、わくわくしながら読んだ。弟子には、勝海舟の従兄弟にあたる剣客男谷精一郎や弘前藩主津軽寧親(つがるやすちか)の暗殺未遂事件で知られる相馬大作こと、下斗米秀之進(しもどまいひでのしん)など、個性的な人物がいる。
この硬派平山行蔵に共感するのが松平楽翁(定信)であり、対比して描いているのが、賄賂政治の中心にいる中野播磨守清茂(のちに隠居し碩翁を名乗る)であり、駿河沼津藩主水野忠成(みずのただあきら)の家老土方縫殿助(ひじかたぬいのすけ)である。硬軟両者の対立が作品のテーマになっている。
物語●平山行蔵(ひらやまこうぞう)は、屋敷内に道場「兵原草蘆(へいげんそうろ)」を開き、剣術と兵学を教えていた。文化十年、平山はすでに五十五歳であり、この時代ではもう老人だった。太平の世にありながら、戦場を忘れず、自分ばかりか弟子たちにも粗食と厳しい稽古を続けていた。その「兵原草蘆」に、十五歳の美少年中村浦之助が入門してきた。平山は弟子の男谷精一郎(おだにせいいちろう)を、浦之助の相手に指名した。
隠居し楽翁と名乗る前老中の松平定信は、平山の噂を聞き、剣術大会を開き、幕府にはびこる中野播磨守の権勢をそごうとする…。
目次■第一章 治にして乱を忘れず/第二章 死を必すれば則ち生く/第三章 兵に常勢無し