(ばきんのよめ)
(むれようこ)
[芸道]
★★★★☆
♪群ようこさんの初の時代小説。文庫版の発売は2009年11月だったが、馬琴の嫁の話ということで、敬遠気味に読み逃していた。
馬琴の嫁を描いた時代小説では、梓澤要さんの『ゆすらうめ―江戸恋愛慕情』がある。こちらは、夫に先立たれて子どもを育てながら、舅・馬琴の畢生の大作『南総里見八犬伝』の口述筆記をする路を連作形式で描いている。
群さんの『馬琴の嫁』では、みち(路)の生涯を資・史料に基づいて描いた歴史時代小説。瀧澤家に嫁入り後のみちの奮闘ぶりの描写が興味深い。馬琴の偏屈ぶり、謹厳さはいろいろな作品で描かれてきたが、夫の宗伯は影が薄い存在だった。この作品では夫婦関係についても詳述されていて、面白く読むことができた。
病弱で頼りにならない夫、口うるさい姑、家計を取り仕切る舅との生活。家事に子育て、病人の介護に加え、馬琴の口述筆記まで、奮闘するみちの活躍ぶりが感動的なヒロイン小説。また、物語では、猫が家族の一員として重要な役割を演じていて、猫好きにはおすすめの一冊。
関川夏央さんの書かれた文庫巻末の解説が秀逸で、馬琴と路の生涯をコンパクトに整理してくれているので、作品の世界がよりわかりやすくなっている。
主な登場人物◆
てつ:土岐村元立(ときむらがんりゅう)の三女で、のちの瀧澤路(たきざわみち)
土岐村元立:医師
こと:元立の妻
しづ:元立の長女
元祐:元立の長男
いほ:元立の次女
曾根宗之助:しづの夫
宗之介:しづの子
たみ:元祐の妻
うめ:土岐村の下働き
曲亭馬琴:人気戯作者
瀧澤宗伯:馬琴の息子で医師
興邦(太郎):みちと宗伯の長男
次:みちと宗伯の長女
幸:みちと宗伯の次女
百:馬琴の妻
さき:馬琴の長女
清右衛門:さきの夫
祐:馬琴の次女
久右衛門:祐の亭主
鍬:馬琴の三女
祖太郎:鍬の息子
むら:瀧澤家の下働き
かね:瀧澤家の下働き
杉浦家の老母:瀧澤家の地主
美濃屋:版元
渡辺崋山:家老で画家
山本半右衛門:興邦の屋敷の隣人
伏見岩五郎::興邦の隣近所の屋敷に住んでいる友人
おまき:伏見家の末娘
林猪之助:興邦の隣近所の屋敷に住んでいる友人
山本悌次郎:興邦の同心仲間
岩井政之助:興邦の同心仲間
梅村直記:興邦の同心仲間
松村儀助:興邦の同心仲間
殿木順蔵:医者の三男で同心
吉之助:麻布の鉄砲同心の息子
丁子屋:版元
物語●医師土岐村元立の三女に生まれたてつは、二十二歳のときに、人気戯作者曲亭馬琴の長男で医師の瀧澤宗伯に嫁いだ。宗伯は三十歳を超え、馬琴は六十一歳だった(いずれも数え年で、百は夫の馬琴より三歳年上)。
婚礼の翌朝、てつは馬琴から「瀧澤路」への改名を告げられる。病弱で神経質、面白みのまったくない夫、癇癪持ちの姑・百、そして厳格で一家の家政すべてを統率する舅の馬琴。歌舞音曲好きでにぎやかなことが好きな実家とは、まるで違う家風の瀧澤家でのみちの緊張の日々が始まった…。
目次■一 てつの家/二 緊張の日々/三 孤軍奮闘/四 跡取り誕生/五 夫の病/六 不運続き/七 次との別れ/八 宗伯の死/九 太郎の元服/十 馬琴、没す/十一 みちのその後/解説 関川夏央