(ゆきにさく)
(むらきらん)
[武家]
★★★★☆☆
単行本
♪。『マルガリータ』で第17回松本清張賞受賞した、村木嵐さんが「越後騒動」をテーマに、藩を守るための戦った男を清冽に描いた武家時代小説。降り積もる雪、新田開発、そして大地震、大火、継嗣争いなど、越後高田藩に次々と難題が降りかかる。小栗美作はいかに対峙していくのか。
「雪国は頑固者が多いと聞く」
高田は一年の三が一を雪に閉ざされる。そのあいだは土も日差しも見ることができず、他国で何が起きても音さえ届かない。雪のないときでも、江戸までは早飛脚で三日もかかる。
「越後には、およそ頑固者はおりませぬ。ただ辛抱強いだけでございます。こたびも必ず、城下はすぐにもとに戻ります」
(『雪に咲く』P.74より)
自分は新潟県出身だが、うかつなことに江戸前期(寛文五年・1665年12月27日)に、高田で大きな地震が起こったことを知らなかった。物語では、積雪がある中で起こった地震の様子を事細かに描いていて興味深かった。
未曾有の災害に遭い、小栗美作は筆頭家老として、越後高田藩の復興のために目覚ましい活躍ぶりを見せる。藩に蓄えた城米と金子五万両を被災した城下の民にすべて貸し与え、幕府と交渉して同額の五万両を借りる受けることに成功する。さらに、幕府より慰問の使者ともに、米三千俵が届けられる。
雅楽頭を待ちながら、控間では畳と襖の真新しさについ幾度も唾を呑んだ。膝頭に置いた岩のような拳は柄にもなく小刻みに震えている。仙台藩家老原田甲斐が乱心して一門重臣の斬殺におよび、自身も討たれたのはまだほんの二十日前、この座敷でのことだ。
(『雪に咲く』P.88より)
改めて、越後騒動が伊達騒動と同時代に起こったことに気づかされる。本書を読むと、なぜ越後騒動があのような結末を迎えることになったのか、腑に落ちる。と、同時に、歴史が為政者の都合のよい形に綴られたものであり、時代小説には、稗史を描くという価値があることに思い至る。
山本周五郎さんの『樅ノ木は残った』が名作として、原田甲斐の名誉挽回につながったように、本書は、越後騒動の中心人物小栗美作守正矩の汚名を雪ぐことにつながってほしいと痛切に願う。そんな魅力に富んだ作品である。
主な登場人物◆
小栗美作:越後高田藩筆頭家老の嫡男
荻田本繁:越後高田藩次席家老の嫡男
片山主水:越後高田藩家老の嫡男
松平光長:越後高田藩藩主
市正:豊後に配流されていた光長の弟
大蔵:市正の弟
お閑:市正の妹
浅茅:お閑の侍女
真砂:幕府密偵
酒井雅楽頭忠清:老中
渡辺大隅守綱貞:雅楽頭の腹心で町奉行。通称「熊」
物語●慶安三年、越後高田藩主・松平光長のもとに、豊後へ父の忠直とともに配流されていた三人の弟妹が戻ってきた。のちに筆頭家老となる小栗美作は、光長の妹・お閑を妻に娶る。
越後高田藩は、家康の二男秀康が祖で、もとは越前松平家の惣領筋で六十八万石だったが、先代・忠直の改易で二十六万石に減じたうえ転封されていた。
目次■第一章 銀の雨/第二章 春、東西/第三章 高田大地震/第四章 猫じゃらし/第五章 雁木道/第六章 騒動/第七章 冬ふたたび/第八章 雨の降る