月を吐く
(つきをはく)
諸田玲子
(もろたれいこ)
[戦国]
★★★★☆☆
♪徳川家康の偉人らしくない、せこさというのが生まれた三河という風土から来るものなのかと思っていたが、長い人質生活から来ているとみた方がいいようだ。それはともかく、家康の正妻・築山殿というと、悪妻の典型のように描かれてきたが、果たして…。
期待に違わず、女性作家らしいきめ細やかさと情感を込めて瀬名(築山殿)を魅力的に描き、瀬名を通して、新しい家康像が浮かび上がってきた。
瀬名を中心に姑・於大(家康の生母)と信康の嫁・五徳(信長の娘)の嫁姑関係が、戦国時代の今川、織田家と徳川家の関係を投影していて面白く、その描かれ方も橋田寿賀子ドラマ風で読ませる。とくに於大が泉ピン子風のキャラになっていていい。
歴史をなぞりながらも、波瀾万丈のロマンに仕上げた筆力は見事で、読後感も快い。
物語●天文十二年(1543)秋、今川家の重臣・関口刑部少輔親永(せきぐちぎょうぶしょうゆちかなが)は、丸子泉ヶ谷の吐月峰柴屋寺の住職・宗物より八歳の男の子・高橋又五郎(広親)とその姉・きくねを託された。親永には、吐月峰で譲り受けた姉弟を、昨年生まれたばかりの愛娘の瀬名姫(おふく)の従者にと考えて連れ帰った。
七年後、瀬名は、今川家に人質としてやってきた三河国岡崎城主、松平竹千代をはじめてみた。やがて二人はともに今川家の軍師・雪斎の薫育を受けていることがわかった。やがて、元服して竹千代より名を変えた元信と瀬名間に縁談が…。
目次■序/第一章 満月/第二章 無月/解説 寺田博