あくじゃれ 瓢六捕物帖
(あくじゃれ・ひょうろくとりものちょう)
諸田玲子
(もろたれいこ)
[捕物]
★★★★☆☆
♪諸田さんの痛快捕物帳の登場。主役のキャラクターが魅力的な感じがする。
時代小説の面白さを考える時に、1.ストーリーの面白さ 2.キャラクターの魅力 3.オリジナリティー 4.読み味 5.時代性、があげられる。諸田さんのこの作品は、すべての点で高いスコアを与えられる傑作捕物小説だと思う。
とくに登場人物のキャラクター設定がいい。主人公は風采が上がらない男やもめの北町奉行所定町廻り同心・篠崎弥左衛門と、対照的に色白細面で役者のような男前の悪党・瓢六である。堅物な弥左衛門が知恵と機転あふれる瓢六に翻弄されながらも、協力して事件にあたり、友情を深めていくところが読み味の良さにつながっている。
…瓢六と話し合わねばならないことが山ほどある。だが――。
今は止めておこうと、弥左衛門は思った。
なぜかわからないが、今はこうして、ただ肩を並べて歩いていたい。
「また降ってきやがった」
「こいつは大雪になりそうだ」
空を見上げ、手のひらをかざしながら、そのくせどちらも歩みを速めようとはしない。
灰色の空がうるんで、牡丹雪がほろりほろり落ちはじめた。(「紅絹の蹴出し」より)
『陰陽師』の安倍晴明と源博雅の二人のようなシーンである。脇を固める岡っ引の源次、瓢六の情婦で芸者のお袖、弥左衛門の上司で与力の菅野一之助、弥左衛門の姉・政江など、いずれもキャラが立っていて、作品を豊かにしている。
物語●「地獄の目利き」定町廻り同心の篠崎弥左衛門がかつて十手を預けていた元岡っ引の娘が殺された。賭場に入り浸り数々の悪事の余罪を疑われ小伝馬牢の大牢に押し込められていた瓢六は、博打仲間に娘殺しの嫌疑がかけられ、事件解決に乗り出すことに…。「ギヤマンの花」阿蘭陀商館の館長のお気に入りのギヤマンが盗まれ、容疑者が二人現れたが、肝心のギヤマンは見つからなかった。そこで、かつて長崎で地役人をしていた瓢六が解き放たれることになった…。「鬼の目」大牢内で囚人が毒殺された。一方、両国回向院では潅仏会の賑わいの中で千歳茶に毒が混入されるという事件が起きた…。「虫の声」瓢六が娑婆から戻ってくると、牢名主の雷蔵が溜(ため)に送られ、牢内の雰囲気が一変していた…。「紅絹の蹴出し」解き放たれた瓢六は、なじみの湯屋で紅木綿の蹴出しばかりを盗む老婆を見かけた…。「さらば地獄」鼠小僧と噂される男・伍助がお縄になり入牢した。囚人たちにちやほやされる伍助を見て、瓢六は…。
目次■地獄の目利き|ギヤマンの花|鬼の目|虫の声|紅絹の蹴出し|さらば地獄|解説 鴨下信一