(げんわく)
(もろたれいこ)
[サスペンス]
★★★★
♪時代小説で「サスペンス」というジャンル分けもないものだと、われながら呆れてしまうが、この作品集は「女と男のラブ&サスペンス」という陳腐なフレーズでしか括れないような特質をもっている。作品の印象としては、皆川博子さんを彷彿させる。
期待の新進作家・諸田さんの最初の文庫化作品。1996年に刊行されたデビュー作品集『眩惑』(ラインブックス刊)に、短篇を1篇加えたもの。初刊本と文庫本では、複雑なタイトルの変更がなされている。初刊本では、タイトルは『眩惑』だが、中篇の「面目なき仕儀なれど」と短篇「運の尽き」の2篇を収録。物語の内容を象徴するものとしてタイトルが使われていた。これに対して文庫本では、「面目なき仕儀なれど」を「竹薮をぬけて」、「運の尽き」を「花火」とそれぞれ改題し、新たに表題作となる短篇「眩惑」を収録している。改題して作品のイメージが変ってしまい、違和感を感じるケースもあるが、今回は大正解だった気がする。
装幀は、文庫本では珍しい祖父江さんが担当。歌麿の画のデザイン処理が何とも大胆。
物語●「花火」江尻宿に現れた、神田の安二郎は、お上に追われる身。二十代後半でで、役者にしたいような色男だった。花火に誘われて足を止めた縁日の夜、商家の後妻・お佐和と出会った…。「竹薮をぬけて」高隹(たかとり)新吾は、旅の途上で非業の死を遂げた甥の遺骨を引き取り、その死の謎を明らかにしようと、小田原から保土ヶ谷宿の近くの辻村にやってきた。甥が宿泊していた秋山屋の後家・おさえと出会った…。「眩惑」伍助は七十年近く生きてきて、主でかつて戦国の覇者として目覚しい武功を立てた工藤泰兼と、泰兼が愛した小夜の方の土塚を守っていた…。
目次■花火(縁日/翌日/翌々日)|竹薮をぬけて(一日目/二日目/三日目/四日目/五日目/六日目/七日目/八日目/十一日目/一月後)|眩惑(某日/三十年前)|解説 細谷正充