こんぴら樽
(こんぴらたる)
宮本昌孝
(みやもとまさたか)
[短編]
★★★★
♪『夕立太平記』が気に入ってしまい、探し求めて本書を手にする。南伸坊さんの装幀が実にいい。あとがきによると、表題作は、昔の中村錦之助さんの東映時代劇の影響を受けているらしい。そういわれると、なんとなく美空ひばりさんに似ている。
本書は、中・短編4編を収録している。若手作家に似合わない器用な筆致で、それぞれ趣が違う作品になっている。
「こんぴら樽」夕立につながる颯爽とした時代小説本来の楽しさがある。「一の人、自裁剣」一の人=位人臣を極めた、豊臣秀次の孤独と剣の師・中条流平法の宗家、富田治部左衛門との交流をドライに描く。「蘭丸、叛く」森蘭丸は、信長に特別扱いされる小姓小倉松千代に嫉妬していた。あやしい三者の関係は…。「瘤取り作兵衛」島原の戦いの中、かつて明智光秀に仕えた瘤取り作兵衛は、五十年ぶりに旧友と出会う。硬骨の武士に隠された意外な秘密とは…。
物語●こんぴら樽―空き樽に初穂料を入れて海に流すという習わし―樽を拾った者は、金毘羅宮へ代参して、奉納しなければならない。丸亀藩の足軽の娘りや(十歳)は、海で遊んでいて、樽を見つけるが、左眼に眼帯をした少年に横取りされそうになる…。それから九年。りやは美しく成長し小具足術道場の師範代になっていた。
目次■こんぴら樽/一の人、自裁剣/蘭丸、叛く/瘤取り作兵衛/あとがき