影十手活殺帖
(かげじゅってかっさつちょう)
宮本昌孝
(みやもとまさたか)
[伝奇]
★★★★☆☆
♪〝縁切寺〟として知られる鎌倉東慶寺を舞台にした作品というと、隆慶一郎さんの『駆込寺蔭始末』(光文社文庫)や『柳生忍法帖』(山田風太郎・講談社文庫)が思い出される。
実は、読み始めるまで、この作品が宮本さんの『尼首二十万石』(講談社)の続編のようなポジションにあるということに、迂闊なことに気が付かなかった。『尼首二十万石』の方にちょっとだけ登場した、東慶寺門前の和菓子屋〈餅平〉の息子・和三郎が今回の連作ものではヒーローなのである。第20代住持天秀尼(豊臣秀頼の息女)を守護した夏見平左衛門晴守以来、代々〈餅平〉に伝わる独自の〈平左十手=御用十手の棒身部分が反りをうたせた刀身となっている〉を武器に、虐げられてきた女たちに代わり悪者に立ち向かうのだ。
ちょっと狂うと、男と女のドロドロしたものになりがちなテーマを、作者特有のケレン味のない爽やかな文体と、ドラマチックな展開で気持ちよく読ませてくれる。
物語●「血煙因縁坂」商家の女房れんは、老僕が病の床についたために、同宿の老武士とその甥に箱根越えの同道を頼んだ…。「白浪反魂丹」富山の反魂丹売りの女房なをは、夫の暴力に耐え切れず、東慶寺に駆け込んだ…。「冬霞妻敵討」人別帳外の無宿者でありながら、長屋のみんなから好かれて美談ばかりの夫婦の善蔵とおみつ。しかもひとも羨む仲の良い二人が離縁するという…。「忠臣徒名草」百姓の女房かんは、夫の浮気を止めさせるために東慶寺に駆け込んで来た…。「入聟菊之丞」呉服商の女房つねは、京から入聟した菊之丞が閨事をしないために離縁を申し出た…。
目次■血煙因縁坂|白浪反魂丹|冬霞妻敵討|忠臣徒名草|入聟菊之丞/解説 中島誠
装幀:川上成夫
解説:中島誠
時代:享保十年
場所:箱根、鎌倉、千住・小塚原、深川北松代町、大崎村、下谷三味線堀、江戸金沢町、京ほか
(講談社・1,800円・99/06/10第1刷・273P)
購入日:99/06/13
読破日:99/07/15