(はたもとはなさかおとこ じょう・げ)
(みやもとまさたか)
[ユーモア]
おすすめ度:★★★★☆☆
♪「殿中放屁御免」の家柄の当主である、留主水之介は、退屈屁、思案屁、諸屁流真顔崩し、諸屁流天狗とび、三段とび、諸屁流脚払い、脚斬り、諸屁流城崩し、御昇進屁、諸屁流夢寐誘、諸屁流時鳥……、多彩な諸屁流放屁術の奥義を駆使して活躍する。
将軍家の御落胤を語る鰻一坊事件の顛末を描く話や、吉良邸に討ち入りできず汚名を来た旧赤穂藩士の悲哀と「仮名手本忠臣蔵」誕生秘話など、興味深い話が披露されていき、なかなか楽しい。
物語●慶長二十年、大坂夏の陣において、真田幸村の猛撃に徳川旗本勢は総崩れとなり、家康の命もあわやという土壇場、ひとり踏みとどまって、幸村めがけて放屁一発、御大将の窮地を救った初代から、数えること、百三十年、時は八代将軍吉宗の治世が終わりを告げるころ。
中肉中背、下膨れの童顔に大きな瞳、眉間には臀部の割れ目に似た「桃割きず」。永世「殿中放屁御免」の御墨付を頂戴した三千石の旗本、茶乙女家(ちゃおとめ)の七代目留主水之介康景(ルモンドのすけやすかげ)の登場である。
得意技は諸屁流放屁術。ピンチになると、ポパイのほうれん草のように、茶乙女家秘伝のキンピラゴボウを食べて自由自在に屁をひねる。
上巻は、「殿中放屁御免」の家柄で、諸屁流放屁術の奥義を究めた茶乙女留主水之介の活躍譚を4話連作形式で紹介した。それは、下巻で繰り広げられる留主水之介の空前絶後の嫁取り話へのプロローグだった。
婚儀の場から逃げ出したじゃじゃ馬姫に一目ぼれした留主水之介に災難がふりかかる。
ロマンチックコメディ的な展開を見せる時代小説。
放屁術を剣術に置き換えれば、そのまま本格チャンバラものに変わるというユニークな設定。
主人公・茶乙女留主水之介という名前が嘘っぽく、前将軍吉宗、将軍家重、大岡忠光、田沼意次、から大口屋治兵衛、日本左衛門、奴の小万、鬼平の父親・長谷川平蔵宣雄まで登場するが、時代考証がハチャメチャなわけではない。奇想天外な物語展開であるが、押さえるところは押さえた、上質なエンターテインメント時代小説である。
作者の宮本昌孝さんが早川書房というミステリとSFが主体の出版社の『小説Hi』誌で発表した幻の作品でもある。上巻は、15年前に、『旗本花咲男? 旗本花咲男』のタイトルでハヤカワ文庫から刊行されたが、下巻は諸事情からみかんのままであったという。放屁という下手に扱うと下品な下ネタになりそうな題材を上品なロマンチックなファンタジー時代小説に仕上げた作者の資質の高さに新鮮な驚きをもった。
目次■第一話 留主水之介登場/第二話 四十八人目の義士/第三話 剣鬼/第四話 問われて名乗るも(以上上巻)|第五話 残香/第六話 女難/第七話 城攻(以上下巻)