妖櫻記 上・下
(ようおうき)
(みながわひろこ)
[伝奇]
★★★★☆☆
♪「真夏の夜の夢」「空騒ぎ」などのシェイクスピアの喜劇を彷彿させる傑作。語り口や複数の男女の恋模様がまさにそれ。伝奇小説のスタイルを採っているのもうれしい。
今月は、室町時代にドップリ浸っている。手垢がついていないので、純粋にストーリー展開を楽しめる。主要の登場人物は、山東京伝の「桜姫全伝曙草紙」から借り、鶴屋南北の歌舞伎「桜姫東文章」にも登場するおなじみのものらしい(もちろん、ぼくは知らなかった)。
物語●赤松満祐が足利義教を暗殺した夜、満祐の側室野分は、もう一人の妾で臨月の玉琴を惨殺する。しかし、呪力で胎児は蘇り、玉琴も活傀儡となって野分とその娘桜姫の前に現れる。その頃、南朝の血を引く少年阿麻丸は、南朝再興に執着する周囲のものたちと陰謀渦巻く日々を送っていた。(上巻)
南朝方とはぐれた阿麻丸は山中も隠れ棲み、野分は阿麻丸を追って娘桜姫を捨て、阿麻丸を恋慕う桜姫も輿入れの時を迎える。しかし、甦った玉琴の子・清玄はついに桜姫と出会い、彼女の首を狙う。離ればなれになっていた者たちが、南朝方の神器をめぐる戦いで再び一堂に会するが…。死者生者入り乱れる歴史絵巻。(下巻)