笑い姫
(わらいひめ)
皆川博子
(みながわひろこ)
[伝奇]
★★★★☆
♪あの本庄茂平次が出てくると聞いて、ワクワクして読んだ。松本清張さんの『天保図録』(朝日文庫)で、鳥居耀蔵の配下として、悪の限りを尽くし、凄玉のヒールを演じた、本庄茂平次である。
話は、水野忠邦の天保の改革時代。改革の執行人、鳥居の眼が向けられるのは、蘭学、戯作、見世物…。新奇なるもの、珍奇なるなるもの、好奇なるもの。主人公の新進戯作者・蘭之助や軽業師小ぎん一座も当然、事件の渦中に巻き込まれることになる。
作者の皆川さんは、天保時代の大活劇を描くばかりでなく、蘭之助の戯作として『狂月亭綺譚笑姫』(狂月亭は蘭之助のペンネーム)の話を劇中劇の形で見せてくれる。室町幕府の管領・細川政元が敵役のこの話が妖しくて、伝奇めいて超面白い。こちらを主とした話も読んでみたい。
もちろん、本編も間宮林蔵や江川太郎左衛門、シーボルト事件に連座した、天文方高橋景保の遺児なども絡んでもつれにもつれていき最後まで目が離せない。
物語●阿蘭陀通詞であった父譲りの語学の才がありながら、戯作者を志す蘭之助。彼の居候先に、「ハリトォ ハリトォ」と、奇妙な二人連れ(浪花奇鈴丸とすっぺら坊)がやって来た。二人は、東両国の玉本小ぎん一座の軽業師で、おひねりを包んだ反故紙に書かれた蘭之助の戯作に、小ぎん太夫が興味を持ち、話の続きを知りたがっているという。
ちょうどその日は、兄弟同様に育った、高橋小太郎と作次郎が、流刑地の八丈島から赦免されて戻ってくる日であり、蘭之助は、永代橋へ出迎えに行くところであった…。
目次■I ハリトォハリトォ―赦免船/II ヒュール―洋砲点火/III マルス―遠島部屋/IV ボニンアイランド―無人島/V コルベット―汽帆船/解説・岩井志麻子