瀧夜叉
(たきやしゃ)
皆川博子
(みながわひろこ)
[平安]
★★★★☆
♪ずっとあたりをつけていた「皆川博子」という鉱脈が、質の良い銀山であることが確認でき、とても得した気分だ。一作一作まるで、違う時代を取り上げて勝負するその筆力がすごい。
また、皆川さんの作品では演劇性が強く感じられる。『妖櫻記』(文春文庫)を読んだときは、シェイクスピアのコメディを想起させられたが、この作品でも、何かわからないが近世の演劇っぽさが漂っていた。読後に竹田真砂子さんの解説を読んでその訳がわかった。
百鬼夜行が信じられ、陰陽師が官職として認められていた平安時代が舞台となっている。陰陽師は、今でいえば、科学者のようなものかもしれない。陰陽師が出てこないと、どうも平安ものとして物足りなくなってしまう。都ばかりでなく、平将門と藤原純友の反乱も重点を置いて描かれていて面白い。
◆主な登場人物
藤原純友:前伊予掾。瀬戸内海の大魁帥
九郎直純:藤原純友の息子
美丈丸:九郎の従者
千代童:持衰(じさい)と呼ばれる船の安全の航行ための生け贄
高橋伊友:藤原純友の弟で、九郎の叔父
平将門:坂東の豪族
夜叉:平将門の娘
如月尼:夜叉の姉
多治経明:平将門の伴類(勢力下にある土豪) 興世王(おきよのおおきみ):武蔵国国司
藤原秀郷:下野の豪族
藤原千晴:秀郷の嫡男。瀧口の武士
安倍童子:白髪で下げ角髪(みずら)の童形の陰陽師のタマゴ
賀茂忠行:陰陽頭
賀茂保憲:忠行の嫡男で、天文博士
葦屋道摩:謎の呪術師
藤原恒利:純友の次将
藤原純素:純友の弟
檜垣:かつての名妓
物語●悪路王:別名・阿黒王。九郎らを保護する奥羽の豪族 平安遷都から百四十年あまり、東西の雄・平将門と藤原純友は共に手を結び、朝廷に叛旗を翻した。盟約の証として夫婦となった純友の息子九郎と将門の娘夜叉、悲運の役を担う千代童、夜叉の姉・如月尼らは戦乱に巻き込まれ、運命に翻弄される…。燃え上がる大地に陰陽師の呪詛の声が響く、妖艶なる伝奇ロマンの傑作。
目次■巻之一/巻之二/巻之三/解説 竹田真砂子