幕末あどれさん
(ばくまつあどれさん)
松井今朝子
(まついけさこ)
[幕末]
★★★★☆☆
♪黒船の重い砲声によって開いた幕末・維新の大芝居の幕。その舞台の上では、時勢に翻弄される若者たちの、さまざまな人生が演じられた。講武所通いの生活を捨て、芝居の立作者河竹新七(後の黙阿弥)に弟子入りする旗本の二男坊・久保田宗八郎。同じく旗本の二男で、やはり講武所で鉄砲を習う片瀬源之介。多感な二人のあどれさん(adolescents=フランス語で青年の意)を軸に、激動する時代をドラマチックに描く青春小説。
彼らの生きざまと平行するように、市川小団次や沢村田之助など華やかな舞台姿など、幕末の歌舞伎界も活写され、「仲蔵狂乱」(講談社)で第八回時代小説大賞に輝く作者ならではの、奥行きの深い作品に仕上がっている。(←書評用にまとめたものです)
鮮やかな色遣いと、バタ臭い題材が幕末の雰囲気を伝える、表紙の錦絵は、五雲亭貞秀のもの。
◆主な登場人物
久保田宗八郎:旗本の二男
久保田主馬:幕府の小納戸役。宗八郎の八歳年長の兄
寿万:主馬の妻
菅沼:講武所での先輩
市川小団次:当時江戸一番の人気役者
片瀬弥市郎:旗本の総領息子
沢村田之助:人気女形
加藤:宗八郎の剣術仲間
大野:宗八郎の剣術仲間
河竹新七:狂言作者。通称・寺内(じない)の師匠
竹柴豊蔵:新七の弟子で見習い狂言作者
お琴:新七の女房
金作:若手狂言作者
竹柴諺彦:新七の片腕の二枚目作者
市村羽左衛門:市村座の座元
花紫:土蔵相模の娼妓
馬鹿長:働方の手伝いをする大男
河原崎権之助:元河原崎座の座元で、市村座の金主。太髷の旦那と呼ばれる
片瀬源之介:弥市郎の四つ下の弟
井岡清兵衛:小十人組頭
千鶴:清兵衛の娘で、源之介の許婚
杉浦:源之介の講武所仲間
成島甲子太郎:かつて上様の侍講を勤めた儒者
シャノアン:幕府陸軍参謀大尉
インゲレク:幕府陸軍軍曹
勝安房守義邦:幕府陸軍総裁
大岡新吾:源之介の伝習隊士官仲間
大鳥圭介:歩兵奉行
物語●久保田宗八郎は、講武所と男谷道場で、直心影流の剣に打ち込む若者だったが、ふとしたことから、芝居の世界に魅せられていく…。
一方、元奥右筆の二男・片瀬源之介は、宗八郎とすれ違うように、講武所に通い、鉄砲を習い、自分の道を切り開こうとする…。
目次■プロローグ|[文久二壬戌年]道場の汗/講武所の秋/猿若町|[文久三癸亥年]寺内の師匠/作者旅行/小団次の腕/馬鹿長|[元治元甲子年]太髷の旦那/品川の窓/歳の市の再会|[慶応元乙丑年]蓮華寺坂/雀戦|[慶応二丙寅年]松づくしの厄災/遠雷/歩兵志願/成島先生|[慶応三丁卯年]横浜の風/二人のあどれさん/異変の秋/再興願い|[慶応四戊辰年]最期の春/泥濘の道/宇都宮戦争/雨の上野/それぞれの秋、明治元年|[明治二己巳年]東京府南八丁堀心中|エピローグ
装丁:安彦勝博
時代:文久二年
場所:雉子橋、本所亀沢町、神田小川町、本所石原町、猿若町、南割下水、品川、白山、横浜
(PHP研究所・1,900円・98/09/25第1刷・451P)
購入日:98/09/12
読破日:98/09/26