雨に紛う
(あめにまごう)
真野ひろみ
(まのひろみ)
[幕末]
★★★★☆☆
♪蓬田さんの装画に、期待の大きさが見られる、女流作家のデビュー作。作者の真野ひろみさんは、第10回時代小説大賞で最終候補となり、残念ながら大賞(『十手人』押川國秋)は逃している。
幕末維新を舞台に「隻腕の美剣士」伊庭八郎秀穎(いばはちろうひでさと)とその義妹・礼子の愛と戦いの日々を描く、凛々しくもせつない物語。読んでいて目頭が熱くなったシーンがあった。若い女流作家らしい視点に好感がもてる。伊庭八郎ファンがまた増えるのではないだろうか。
タイトルにもあり、八郎の歌として引用される「あめの日は、いとヾこひしく思ひけり、我がよき友は、いづこなるらめ」でも歌われているように、作中では雨がとても印象的に描かれている。
物語●明治三十四年六月、東京四谷にある伊庭家の客間で、礼子と想太郎は、箱館戦争で死んだ、長兄の八郎の思い出にひたっていた。明治維新から三十余年が経過し、当時のことを偲ぶ会合があちこちで開かれていた。そんな中で、旧幕軍の勇士伊庭八郎のことを話してほしいと、義妹である礼子に声がかかった。会に出席することは承知したものの、人前で話したことなどない礼子は、義兄の想太郎相手に史談会の練習をしていたのであった…。
目次■序章 史談会前日/第一章 ひそか雨/第二章 吾妻錦絵/第三章 雨夜の月/第四章 猛る気の/終章 史談会当日