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爆撃聖徳太子

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爆撃聖徳太子爆撃聖徳太子
(ばくげきしょうとくたいし)
町井登志夫
(まちいとしお)
[古代]
★★★★☆☆

聖徳太子(厩戸皇子)が活躍した飛鳥時代を舞台に、倭国(日本)から隋、高句麗、琉球にわたって繰り広げられるスケールの大きな奇想天外な古代時代小説。

著者は、2001年に『今池電波聖ゴミマリア』で第2回小松左京賞を受賞したSF育ちの作家、その後、本書のほかに、『諸葛孔明対卑弥呼』『飛鳥燃ゆ 改革者・蘇我入鹿』など、日本の古代史から題材を取った作品がある。

古代についてはまったくの門外漢で知識ゼロに近い、怪獣SFものを想わせる表紙装丁。最後までついていけるかな。しかも、主人公は、はるか昔に授業で習った遣隋使の小野妹子だし。

 妹子はひれ伏して硬直したまま思った。何ということだ。あいつ、あいつは何をしてくれたんだ。厩戸皇子。
 妹子のそばに文書が音を立てて落下してきた。煬帝が投げつけてきたのだ。
 妹子に随行してきた倭国の者たちが、打ち倒されるのが見えた。
 涙にくれた妹子の目に、問題の文書が一行だけ最後に映った。
 
『日出処天子致書日没処天子』

(『爆撃聖徳太子』P.12より)

序章でいきなり、遣隋使小野妹子による、隋の皇帝煬帝への謁見と国書拝納のシーン。ところが、厩戸皇子の手による国書は煬帝を激怒させ、捕らえられる。

物語の本編は、十数年前、妹子が二十歳にならない頃から始める。妹子は、筑紫で、隋からおびただしい流民を目撃する。そして、筑紫を治める秦河勝から、中国統一を果たした隋が琉球に攻め込むから、三万人の兵を派遣するように朝廷に伝えてほしいと依頼される…。

 蘇因高。それが彼の朝鮮名だった。
 小野妹子は父親こそ生粋の倭国人だが、母親の中には朝鮮の血が流れていた。祖父は朝鮮半島北部の高句麗(高麗)から来た。

(『爆撃聖徳太子』P.27より)

へぇー、そうなの? 大和朝廷の豪族の半分近くは朝鮮半島からの移住者もしくは、その混血だという。そのため、妹子は朝鮮語を自在に操ることができるという設定。本書を読んでいると、古代(飛鳥時代)のほうが後の時代よりも朝鮮半島が近い存在だったのではないかと思える。

 戸惑っているうちに、高句麗兵が次々に射たれて壁から転がり落ちる。怖るべし皇帝煬帝。天橋攻撃。
 妹子は走った。一刻も早く応援に行くことしか頭にない。しかしあんな敵、どうやって倒すんだ。空に浮かんでいるんだ。

(『爆撃聖徳太子』P.344より)

大国隋に立ち向かう、厩戸皇子と小野妹子の戦いぶりが随所に見られて、いずれもとんでもなく面白い。とくに隋の大軍が高句麗の遼東城を攻めまくるシーンが圧巻。

また、厩戸皇子(聖徳太子)の描かれ方がユニークながら、彼をめぐるさまざまな謎を解き明かしていくところも見事で面白い。定番の時代小説から離れて、ガツーンときたい人に超おすすめの傑作小説。

主な登場人物
小野妹子:下級豪族で、祖父は高句麗からの移住者。
厩戸皇子:用明大皇の子息、聖徳太子
秦河勝:北九州の王
犬上襷:河勝の家来。少年
蘇我馬子:大臣。倭国における最大の権力者で、大皇の外戚
蘇我蝦夷:馬子の嫡男
刀自古娘:馬子の娘で、厩戸皇子の妃
鞍作福利:大陸からの流民でキリスト教徒
夷邪久:琉球王
楊広:南方陳王国司令官
朱寛:楊広の旗下、羽騎尉
喃盤:朱寛の部下
コジャ:琉球の酋長
キャン:琉球の酋長
ケミ:琉球の島の娘
小野毛人:妹子の長男
裴世清:隋国文林郎(大使)
吉士雄成:遣隋使節の副使
恵慈:高句麗の僧
高句麗王
乙支文徳:高句麗軍大将軍
函婁:高句麗軍西大尉
煬帝:隋の二代皇帝
斛斯政:隋帝国軍将軍
李子通:騎馬部隊隊長で、楚王

物語●崇峻三年(590)、小野妹子が二十歳にならぬ頃。下級豪族の妹子は、朝廷の命で、北九州・筑紫を治める秦河勝の領地を訪れる。そこで、妹子は大陸からやってきたおびただしい数の流民を見る。

北朝異民族国家の隋が、南朝漢民族国家の陳を滅ぼして、中国を統一をした。陳王朝のもと、漢民族の歴史と伝統に驕っていた者たちは、すさまじい勢いで遁走しはじめ、中には、海を越えて倭国へ渡ってきたものも大勢いた。妹子は、流民の群れの中に、竹で作った鞭のようなものを振りながら「うるさい」とつぶやく青年を見かける。

飛鳥に戻った妹子は、倭国における最大の権力者、蘇我馬子に呼び出される…。

目次■序|外つ國 日、出ずる前(大陸 強大な隋を起こし 小野妹子 筑紫にて流民を見る/蘇我蝦夷 犬上襷を尋問し 小野妹子 筑紫より琉球へ渡る/王夷邪久 大皇よりの船を歓待し 厩戸皇子 琉球にて使いを笑う/琉球 存亡を賭けて船団の刃を受け 小野妹子 海上の炎を見る)|上つ國 日、出ずる(小野妹子 故なく国書を失くし 皇太子 大陸で超大国隋を語る/将軍朱寛 琉球の戦果を誇り 小野妹子 海上にて追撃を受く)|中つ國 日、中天(小野妹子 蘇因高として大陸に再び渡り 高句麗 王都を守るも頭を下げる/秦河勝 安市にて小野妹子を守り 軍神 勝てぬ戦いを告げる/将軍乙支文徳 遼東を守りて奮戦し 皇太子 自ら聡耳を告す)|下つ國 日、没する(盗賊李子通 江都を取りて楚と号し 福利 射石にて竜眼を割る/小野妹子 贄として高き竜頭に縛し 黒駒太子と共に江都上に浮く)|解説 細谷正充

装画:cR.CREATION/orion/amanaimages
装丁:川上成夫
解説:細谷正充
時代:崇峻三年(590)
場所:北九州、飛鳥、難波津、筑紫、琉球、隋長安、済州島沖、朝鮮半島百済、大同江、端和里、平壌、安市、遼東城、江都、ほか
(PHP研究所・PHP文芸文庫・857円・2012/08/01第1刷・477P)
入手日:2012/07/15
読破日:2012/08/04

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