札差殺し 風烈廻り与力・青柳剣一郎
(ふださしごろし・ふうれつまわりよりき・あおやぎけんいちろう)
小杉健治
(こすぎけんじ)
[捕物]
★★★☆☆
♪町奉行所の役職で、風烈廻りというのがある。今までなかなか脚光を浴びる機会のなかったこの職務を取り上げているので気になってGet!
部屋住みの身から、兄の不慮の死で、与力の職についた、主人公・青柳剣一郎。旗本や御家人の次男、三男坊は、よほどよい養子先が見つからない限り、一生世に出る機会に恵まれず、貧苦にのたうちまわるしかない。世を拗ね、自堕落な生活を送ることも珍しくない。この物語には、紙一重の違いで、事件の加害者にされる、二人の部屋住みが登場する。剣一郎を含めた3人を通して、いびつな江戸時代の武家社会の家族制度が浮彫りにし、疲弊する武士階級の姿を描いている。社会派作家らしい視点の持ち方である。物語中で、新任の与力が同僚や上役を接待する場面があるが、ここにも家中心に回る武家社会の一コマが垣間見れる。
主人公剣一郎は、風烈廻りという風の激しい時に、火事などの災害を予防するために、見廻るという職務であるが、その設定を今一つ生かし切れなかったのが残念。
とはいえ、剣一郎が、質屋殺しと続いて起こる札差殺しの2つの殺人事件の謎を追うところはサスペンス度が高い。江戸柳生の遣い手でもある剣一郎のチャンバラシーンも見逃せないところ。内助の功ぶりがまぶしい剣一郎の妻・多恵の存在も物語にアクセントを与えている。
物語●南町奉行所で例繰方と風烈廻りの掛かりを兼任する、与力青柳剣一郎(あおやぎけんいちろう)は、人質事件の際に受けた疵がもとで、頬に青痣(あおあざ)を残していて、奉行所内では、敬意と親しみ、やっかみを込めて、青痣与力と呼ばれていた。剣一郎の父の代から懇意にしていた質屋大和屋の主が、追剥ぎに遭って殺される事件が起こった。剣一郎は、追剥ぎを目撃したという男・権助を追っていた、権助は、追剥ぎの一味と思われる黒覆面の侍に襲われているところを助ける…。
目次■第一章 三ノ輪の寮/第二章 罠/第三章 心中立て/第四章 愛想尽かし