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江戸のつむじ風

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江戸のつむじ風
江戸のつむじ風

(えどのつむじかぜ)

高妻秀樹

(こうづまひでき)
[痛快]
★★★☆☆☆

実在の講釈師深井志道軒を主人公にした、異色の痛快時代小説。著者は歴史を教える公立高校教員で、2005年に、『胡蝶の剣』で第11回歴史群像大賞を受賞した高妻秀樹さん。

 講釈師の名は、深井新蔵、芸名は志道軒。元僧侶で不惑(四十歳)の歳から講釈師を志したという異色の男である。
 
(中略)

 すでに齢五十二であるため、その人気は一時の仇花に終わると思われたが、この男、講釈の全盛期とされる宝暦年間(一七五一~一七六四)には、八十過ぎの高齢となりながらも二世市川團十郎と人気を二分するほどの際立った存在となり、「あいつの話を見聞していなけりゃ、江戸っ子たぁいえねえ」ということで、連日、江戸はもとより近郷近在から客が押しかけてくるほどの有名人なのである。
 
(『江戸のつもじ風』P.11より)

志道軒は、若い頃に高僧の下で師の求めるままに影働きをする役、密偵をしていたが、時の為政者が没して高僧が失脚したのにともない、還俗して身を持ち崩したと本書でも触れられている。この高僧は生類憐れみの令で知られる隆光だったらしい。平賀源内の『風流志道軒伝』の主人公となっている。

といっても、本書では、志道軒の波瀾の半生を描いているわけではなく、キャラクター造形に巧みに取り入れている。

志道軒自身は作戦や計略を練り、大道芸仲間で、居合い抜きの長井兵助や独楽回しの松井源水、手裏剣投げの東芥子之介、曲芸の豆蔵がそれぞれの得意を生かして実行部隊として活躍するというパターン。

あるときは盗賊を捕まえ、またあるときは誘拐事件の謎を解き、市井で起こる事件や騒動をスパッと解決する痛快時代小説。もっとその活躍ぶりを読みたいところ。

主な登場人物
深井志道軒:講釈師。本名深井新蔵
ウメ婆:茶の給仕係
喜助:志道軒の弟子
弥平:深川木場の材木商・相模屋の手代
樋口庄次郎:伊達藩士
新発田:樋口の上役
半兵衛:浅草を縄張りにもつ十手持ち(岡っ引)
甚右衛門:相模屋の主人
甚吉:甚右衛門の跡取りで、相模屋の若旦那
長井兵助:居合い抜きの大道芸人
東芥子之介:手裏剣の妙技を見せる大道芸人で、本名は蘭
豆蔵:曲芸師
十兵衛:志道軒の昔の仲間
お鈴:十兵衛の娘
生目寺栄蔵:香具師の元締
松井源水:香具師で独楽回し
おさち:源水の養女
但馬屋善兵衛:大店の主
ハマ:善兵衛の妾
鶴吉:ハマの息子
銀次:破落戸の頭
伊丹仁左衛門重友:旗本
北島主水:伊丹家の居候
中村勘左衛門:浪人
青木十郎:勘左衛門の敵
平次:渡り中間
近藤剛蔵:定町廻り同心
おしま:元掏摸
佐吉:島帰りの男
お美代:佐吉の女房

物語●「講釈師志道軒」志道軒の弟子喜助の幼なじみで、深川木場の材木商・相模屋の手代弥平は、店の用事の帰路、人影の少ない場所で血だらけの侍から書状を伊達藩上屋敷の樋口庄次郎に渡すように託された…。
「井戸端の歌」志道軒の所に、かつてともに高僧の下で影働きを務めていた十兵衛(尊海)が訪れてきた。しばしの間、思い出話に花を咲かせたが、上方から舞い戻った十兵衛から堅気ではない雰囲気を感じ取った…。
「かどわかし」香具師の松井源水は、博打で負けた帰り雨宿りをしていた稲荷社で、四人の破落戸が但馬屋の妾の息子を人質にして金を脅かし取る算段をする話を盗み聞いてしまった…。
「必勝の剣」相模屋の跡取り息子の甚吉は、小口の商談の帰りに、不忍池弁天堂で癪に苦しむ紫御高祖頭巾の武家女子を見かけて下心を持って介抱をした…。
「帰ってきた男」志道軒は、イケメンの定町廻り同心近藤剛蔵が島帰りの男佐吉を諭しているところに出くわした…。

目次■序/第一話 講釈師志道軒/第二話 井戸端の歌/第三話 かどわかし/第四話 必勝の剣/第五話 帰ってきた男

カバーイラスト:大柴宗平
カバーデザイン:妹尾浩也
時代:享保年間。志道軒五十二歳のとき(宝暦年間1751~1764には八十過ぎ)
場所:浅草奥山、亀沢町、伊達藩上屋敷、馬道長屋、小梅村、木場、本所石原町、阿部川町、浅草茅町、浅草神社、入谷、鳥越橋、不忍池弁天堂、神田明神、深川、駿河台、両国橋河川敷、並木町、ほか
(学研パブリッシング・学研M文庫・638円・2011/11/22第1刷・276P)
入手日:2012/06/12
読破日:2012/11/23

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