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浮世女房洒落日記

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浮世女房洒落日記浮世女房洒落日記
(うきよにょうぼうしゃれにっき)
木内昇
(きうちのぼり)
[市井]
★★★★☆☆

文政のころの江戸の町人の一年の生活ぶりを描く、日記スタイルの市井小説。著者は、『漂砂のうたう』で第144回直木賞を受賞した木内昇さん。

大正初年に建てられた古い洋館に移り住んだ作者が、昭和二年に椋梨順三郎という作家が現代語訳をした、「浮世女房洒落日記」を見つけるところから、物語は始まる。

 先祖から伝わる長持に、この手記を見つけた。手記、というよりも日記であろう。書かれた時期は定かではないが、推察するところによれば江戸の文化文政、もしくは幾分下って天保あたりか。これを著したのはドウも「お葛」という神田辺で小間物屋を営む者の女房らしい。(以下略)
 
(『浮世女房洒落日記』P.7より)

元日(一月一日)から始まり、大晦日(十二月三十日)に終わる、小間物屋の女房お葛の日記が文句なしに面白い。季節ごとの風物や行事を紹介しながら、日々の生活の中で隣近所とのやり取りが綴られていく。なるべく働かずに生きていこうとするお気楽者の亭主に血を滾らせるお葛の姿が活写されていく。

「自分は小さい頃に親を亡くして早くに奉公に出たもんだから、家族には縁が薄かった。家族というものが、どういう風に暮らして、どんな話をするのかも、よくわからないまま育った気がする。でも、辰三さんのところに来て、はじめて家というものを知った。その良さやあったかさを肌身で知った。それはこの町内も一緒だった。それぞれに暮らしながら往き来があって、なんだかんだ言っても一緒にいる。(以下略)

(『浮世女房洒落日記』P.259より)

小間物屋で住み込みで働く清さんの言葉だが、この作品の魅力を伝えているように思う。今では失われてしまった、市井での人と人とのつながりやぬくもりがここにはある。

主な登場人物
お葛:小間物屋の女房。二十七歳
辰三:お葛の亭主
辰吉:お葛の長男、九つ
お延:辰吉の妹、七つ
清さん:小間物屋の住み込みの使用人。三十歳
富弥太:お葛の隣人で、錦絵屋の主人
お甲:富弥太の女房。三十半ば
おさえ:富弥太のひとり娘。十六歳
大店の扇子屋の旦那
お恒:扇子屋の内儀
放蕩息子:お恒の息子。十九歳
大家さん
お佳:大家の内儀。四十前
六さん:ひとり暮らしの棒手振。二十五
源造:左官屋。二十六
重吉:植木屋。二十七
お夕:重吉の新妻。十八
お兼:髪結い
半蔵:鳶の旦那
半蔵の内儀
玄斎:医師
椋梨順三郎:作家

物語●江戸・神田の小間物屋の女房お葛は、二十七。嫁いで十年、九つの息子と七つの娘がいるが、未だ娘気分が抜けない。神田生まれで、祭りが好きで喧嘩早くお気楽者の亭主に愛想をつかし、家計はいつも火の車。それでも、季節の風物を楽しみ、美顔の探求に余念なし。ひとの恋路にやきもきし、泣き笑いの毎日を送る…。

目次■浮世女房洒落日記/解説 空白としての白粉 堀江敏幸

カバーデザイン:文京図案室
解説:堀江敏幸
時代:明記されていないが文政七年ごろか(両国にらくだの見世物を見物に行ったことや歌川国貞の『今風化粧鏡』(制作年文政六年)が出て話題になった後ということから)
場所:神田辺り、紺屋町、石町、向島、中村座(二丁町)、大川、不忍池、神田川、真崎稲荷、両国、吉原、広尾の原、隅田の堤、染井、神田明神、ほか
(中央公論新社・中公文庫・648円・2011/11/25第1刷・274P)
入手日:2012/06/17
読破日:2012/07/28

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