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まんがら茂平次

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まんがら茂平次
まんがら茂平次
(まんがらもへいじ)
北原亞以子
(きたはらあいこ)
[幕末]
★★★★☆☆
[再読]

ひさびさに幕末の快男児?「まんがら茂平次」に会いたくて、入手する。ふと、映画『幕末太陽伝』の居残り左平次を思い出した。

「武道通信かわら版」に“時代小説のヒーロー列伝”を掲載させていただいている。その候補として、この作品の主人公、まんがら茂平次はどうだろうかと思った。素町人だから、剣術も腕っ節も強くない。その風貌は、小柄で、色白で、少々太りぎみ、さがった眉と二重瞼の目に愛嬌がある若者で、いい加減古くなった川越唐桟の着物姿といったと ころで、お世辞にヒーローの柄ではない。「せんみつ」(千に三つは本当のことをいう)の上をゆく「まんがら」の渾名を持つこの主人公に、何とも言えない愛着と爽快感を持ってしまう。

何故だろうか――「彼の言うことはみんな嘘だと思えば安心してつきあえる」と登場人物の一人は言う。嘘か真かわからない世の中でこれほど、気をつかわなくていいものはないのかもしれない。「自身は、ここで嘘をつこう、ここを嘘でごまかそうなどと思ったことはない。喋っているうちに、それが嘘ではなく、事実であるように思えてくる」というぐらい、その「まんがら」ぶりは至芸に近い。ほれぼれするぐらいだ。しかも、その矛先は義侠のために向けられる。

この小説は、連作形式で、市井ものでありながら、青春群像を描いたところもあり、その点からも好感を受けやすいのかもしれない。三田の薩摩藩邸を逃げ出してきた武州・蓮沼の農家の三男坊・謙助とその恋人・おいね、同郷の土方歳三のつてで新選組に入隊しながら、脱走した森末金吾、清元の師匠おゆう、武芸はまるっきりダメながら彰義隊に入隊する旗本の四男坊・黛宗之助、柳橋芸者小ぎん、五千石の大身旗本の愛妾を伯母にもつ娘・お鈴。いずれも個性的な面々で、まんがらワールドを彩っている。

物語●四つのときに、流行り病で両親を相次いでなくし、以来十七年間、茂平次は江戸で生きてきた。七つの時に、はじめて嘘をついてから、さんざん人を騙してきた。万のことを言ってもほんとうのことはからっぽという意味で、まんがらと渾名で呼ばれていた…。
なじみになった女の家で、大店の息子という嘘がばれて、寝ている間に五両も金の入った財布を取り上げられた。無一文になった茂平次は、御茶ノ水の土手通りで、腹を痛めて苦しんでいる美しい女・お品と出会った…。

目次■まんがら茂平次/朝焼けの海/嘘八百/花は桜木/去年の夢/御仏のお墨附/別れ/わが山河/女の戦争/正直茂平次/そこそこの妻/東西東西/解説 井家上隆幸

カバー装画:蓬田やすひろ
解説:井家上隆幸
時代:慶応三年(1867)
場所:神田鍛冶町、下駄新道、駿河台、御茶ノ水土手通り、浜松町四丁目、薩摩藩屋敷、芝浦、品川、御厩河岸ほか
(新潮文庫・590円・95/09/01第1刷・00/05/20第9刷・445P)
購入日:00/10/07
読破日:00/10/09

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