(けんかごけにん・かつこきちじけんちょう)
(かぜのまちお)
[捕物]
★★★★
♪勝海舟の父、勝小吉が探偵役を務める、時代推理小説。勝小吉が登場する時代ミステリ小説というと、永井義男さんの「蛍狩殺人事件」(読売新聞社刊『鮮魚師』に収録)が思い出される。
『西郷盗撮』(新人物往来社)や『水の城』(祥伝社文庫)などで、活躍する風野さんの最新作は、捕物小説。探偵役の勝小吉が座敷牢に入れられたまま、悪友の早川又四郎と本所界隈を縄張りとする岡っ引きの仙吉親分の力を借りて、難事件を持ち前の推理力と洞察力でズバリ解決する、安楽椅子探偵物(アームチェア・ディティクティブ)。都筑道夫さんの「砂絵シリーズ」を彷彿させるオモシロ捕物帳。奇想天外、凝りに凝った設定やトリックも、都筑ファンをニヤリとさせて楽しませてくれる。
事件解決のヒントを毎回、小吉の生まれたばかりの息子、麟太郎(後の海舟)が与えてくれるのが、親子愛を感じさせてくれていい。
物語●「座敷牢の男」勝小吉は町人毒殺の嫌疑がかけられ、父の男谷平蔵の命で、座敷牢に入れられることになった…。「ひきこもった男」子分格の早川又四郎から、小吉は幼なじみで暴れん坊の藤七がここ三年ほど家に引きこもって外に出ないという話を聞いた…。「房州から来たいい男」小吉は、又四郎から、房州から出てきた色白のいい男が本所界隈の娘っ子たちにひどくもてているという話を聞いた…。「流れ月」小吉は、本所の横川にかかる北中之橋のたもとに、お面をかぶったそば屋が店を出しているという話を聞いた…。「読めない屋号」小吉は、又四郎から高輪南町の大通りに、何と読むのかわからない本屋ができて、たいそう繁盛しているという話を聞いた…。「ダルマ髭の子どもたち」座敷牢に入っている小吉のもとに、三島の造り酒屋の息子清二郎が訪ねてきた。一緒に江戸に出てきた番頭夫婦のひとり息子が神隠しに遭い、何とか見つけてほしいと頼みにきた…。「鯉のぼりは夜泳ぐ」大川沿いのろうそく問屋の鯉のぼりが夜中に一匹増えるということで巷で話題になっていた…。「死美人湯」又四郎が通う湯屋で、美人の清元の師匠が殺される事件が起き、第1発見者の又四郎に嫌疑がかかった…。
目次■座敷牢の男|ひきこもった男|房州から来たいい男|流れ月|読めない屋号|ダルマ髭の子どもたち|鯉のぼりは夜泳ぐ|死美人湯|解説・末國善己