(あきのきんぎょ)
(かわじわか)
[幕末]
★★★★☆☆
♪小学館文庫小説賞受賞作。迂闊なことに三省堂書店で本書を手に取るまで、時代小説だとは思ってもみなかった。著者の河治さんは、映画のシナリオライターとして活躍されたのちに、画家で江戸考証の大家であった三谷一馬さんのもとに弟子入りした人。『秋の金魚』は、ヒロイン留喜(るき)が、江川家の侍医の息子肥田浜五郎と手代の息子松岡磐吉との間で揺れ動く様子を書き綴る形をとっている。この本を読むまでは、浜五郎も磐吉も、江川家の家臣であるばかりか、長崎海軍伝習所で学び、日米修好通商条約批准書交換のために、咸臨丸で渡米する一行に名を連ねた実在の人物だとは知らなかった。浜五郎は同じく咸臨丸で渡米した福沢諭吉らと一緒に写った写真が残されて、切れ長の目をした、なかなか男前である。
http://www.dokidoki.ne.jp/home2/quwatoro/bakumatu/joumuin.html
そのほかにも、同じく咸臨丸で太平洋を渡った赤松大三郎(則良)も傍役で登場するほか、明治の文豪の名も出てきて、知的好奇心をくすぐられる。
幕末から明治にかけて、二人の男性の間で揺れ動く女心をきめ細やかに描いた物語の面白さとは別に、対照的なこの二人の人物に興味を持った。ちょうど、佐々木譲さんが『幕臣たちと技術立国 江川英龍・中島三郎助・榎本武揚が追った夢』を出されたところで、読んでみたくなった。
ブログ◆
2006-05-22 咸臨丸OB、肥田浜五郎と松岡磐吉
2006-05-18 俳優の田村高廣さん、死去
物語●安政三年夏、十八歳の留喜は九つ年上の浜五郎から、ビードロ玉の中に浮かぶ赤い金魚を買ってもらった。留喜は伊豆韮山代官江川太郎左衛門の手代だった柏木林之助の娘だが、父は十数年前に自らの妻と一人息子を惨殺した揚げ句、近隣の十名もの人々を殺傷し、その果てに自害したのだった。原因は、突然の乱心という。乱心者の娘という烙印を押され、ただ一人生き残った留喜は、いつも周囲に気兼ねしながら小さくなって生きていた。その留喜にいつもやさしくするのが、江川家の侍医肥田春安の息子浜五郎だった。しかし浜五郎に心引かれながらも彼にはすでに妻がいる。やがて、留喜に江川家元締手代の次男松岡磐吉との縁談が持ち上がった……。
目次■第一章 金魚玉/第二章 金波銀波/第三章 帰り花/第四章 迷子札/第五章 隔夜/受賞にあたって/解説 高橋治
カバーデザイン:三谷靭彦
解説:高橋治
時代:安政三年夏
場所:本所南割下水江川家江戸屋敷、南八丁堀三丁目、芝新銭座浜御殿隣、伊豆韮山、麻布笄町、ほか
(小学館文庫・571円・2005/11/01第1刷・318P)
購入日:2006/05/04
読破日:2006/05/21