(もうこきたる)
(かいおんじちょうごろう)
[鎌倉]
★★★★
♪来年度NHK大河ドラマの関連出版らしいが、南伸坊さんのカバーイラストが気に入ってしまった。鎌倉時代、とくに蒙古襲来に関して、ほとんど予備知識がないせいで、ハラハラしながら読めた。思いのほか、激動の時代だったことがわかり、勃然と興味が湧いてきた。
作者の後記によると、太平洋戦争後の、昭和28年に書かれたということで、一部の評者からは再軍備化に迎合した作品と見られたらしい。戦争観というよりは愛国心がテーマの一つになっていることは確かだと思う。また、作中にペルシャ人のキリスト教徒(ネストリウス派のキリスト教徒)を登場させたことで、親友の歴史作家・村雨退二郎(むらさめたいじろう)氏と、仲違いしたということで、なかなか興味深い。海音寺さんは、「小説は空想の所産だ。空想力なくしては書けない。しかし、ぼくは常に可能性ある空想を書こうと意図している。調べも考察も手のつくせるかぎりはつくさざるを得ないのである。」と著作のスタンスを示している。
この作品でも、史実を踏まえながらも、魅力的な伝奇的なキャラクターを登場させて、魅力的な物語に仕上げている。クグツが登場するのは、てっきり隆慶一郎さん以後かと思っていたが、この作品で登場し、重要な役割を果たしている。
ともかく、この本が原作というわけではないが、来年の大河ドラマの世界が楽しみになった。
物語●異母兄達に土地を奪われ、公儀の裁判を仰ぐために母とともに京に上った、獅子島小一郎は、市中の警備の武士たちに追われていた、坊主然の異国の大男イスマイルを助けた。このことで、小一郎は逆に捕らわれの身になったが、西園寺中納言実兼の家来として引き取られることで縛めを解かれた。実兼は、朝廷における昇進と権力掌握を狙っていた…。
目次■えびす弓/異国の神/北山の雨/楊柳の宿/クグツ/晩菊/日月の旗/イスマイル/北条時宗/辻角力/乗合船/色は匂えど/鎌倉港/亡国の賦/網/火華/炎の中に/悪魔の薬/もろこしヶ原/立正安国論/夕雲の涯(以上上巻)|春の海/赤と黒/桐の紋/野心とクーデター/暗い情熱/?瑰花/巌下の雷/投網/灯とり虫/祈る/大三島大明神/竜ノ口/西来の意/弘安四年夏/科戸の風/円成真覚/後記/解説・磯貝勝太郎(以上下巻)