病みたる秘剣 風車の浜吉・捕物綴
(やみたるひけん・かざぐるまのはまきち・とりものつづり)
伊藤桂一
(いとうけいいち)
[捕物]
★★★★☆☆ [再読]
♪久々に「風車の浜吉」が読みたくなった。根津の親分・浜吉は、ふとした出来心で、追い詰めた強盗から金を受け取り、目こぼしをしてしまい、そのために御用聞をお役御免となり、百叩きの刑にあって、五年の所払いで江戸を追われた。年季があけて江戸に戻った浜吉は、放浪時に覚えた風車作りで生計を立てていた。人生の酸いも甘いも噛み分けた風車の浜吉がいい。また、彼を支える幼なじみの小日向の喜助親分と、その子分の留造の絡みが微笑ましい。昔、フジテレビ系のドラマで、仲代達矢さんが風車の浜吉親分を演じていたのを思い出した。
『半七捕物帳』を彷彿させるベーシックな捕物帳で、浜吉の推理の冴えがみどころのひとつ。
第七話の「七福神参上」で、「室町ごろに、七福神盗賊というのが流行ったそうだ」という記述があり、澤田ふじ子さんの『七福盗奇伝』を思い出した。
物語●「風車は廻る」元御用聞の浜吉は、猩猩の銀という闘鶏師と対決することになった…。「絵師の死ぬとき」玉村朱蝶という売れっ子の浮世絵師が船の上で殺された…。「人魚の言葉」深川沖で、うすもの一枚の美女が釣り上げられた…。「旅姿の心中者」小田原の旅先で、浜吉は旅姿の心中者の死体を見つけた…。「病みたる秘剣」金貸しで地廻りの親分が、子分二人と腕の立つ用心棒と一緒にいるところで、心臓を刺されて殺された…。「ハゼ釣りのころ」留造の知り合いの弓の先生が、ハゼ釣りに出ていた武家を殺した下手人として捕まえられた…。「七福神参上」浜吉の風車を買いにきた貧しい身なりの女の子が、手に一分金を握り締めていた…。「花かんざしの女」遊び人や吉原の遊女屋の番頭など四人の男が何者かに殺された。死体の手には安物の花かんざしを握っていた…。「狐に似た男」喜助の湯治先の修善寺で、江戸の呉服屋の番頭が、のんびりと釣りをしていた。番頭は近所でも評判のいい働き者だったのだが…。「もぐら組異聞」浜吉は、七年ぶりに怪盗団もぐら組の男を見かけた…。「枯葉の散るとき」茶問屋の主人が、庭に面した居間で、うしろから心の臓をしっかりと一突きされて死んでいるのが発見された…。「鯉抱き人夫」護持院ヶ原の方角に向けて、遊び人らしい一団が、ひとりの男を取り囲んで、歩いていった…。
目次■第一話 風車は廻る/第二話 絵師の死ぬとき/第三話 人魚の言葉/第四話 旅姿の心中者/第五話 病みたる秘剣/第六話 ハゼ釣りのころ/第七話 七福神参上/第八話 花かんざしの女/第九話 狐に似た男/第十話 もぐら組異聞/第十一話 枯葉の散るとき/第十二話 鯉抱き人夫/解説 武蔵野次郎
装幀:新潮社装幀室
解説:武蔵野次郎
時代:江戸後期のどこか
場所:小石川伝通院、小日向、白銀町、小伝馬町、修善寺、金杉水道町、護持院ヶ原ほか
(新潮文庫・476円・91/06/25第1刷・98/07/30第8刷・336P)
購入日:00/06/25
読破日:00/07/09