黒南風の海 加藤清正「文禄・慶長の役」異聞
(くろはえのうみ)
伊東潤
(いとうじゅん)
[戦国]
★★★★☆☆
♪『黒南風の海』は、久しぶりに読むハードカバー(単行本)。加藤清正(軍)を主人公にした時代小説って、ちゃんと読んでこなかったので、新鮮で楽しめそうだ。朝鮮出兵の加藤軍というと、「沙也可」の存在も気になるところ。と思ったら、物語の冒頭で佐屋嘉兵衛忠善が登場する。
実在した降倭(朝鮮側に降った日本人)武将の沙也可(さやか)が登場する。作者なりの解釈で、その正体があきらかになる。一人の妄執から始まった大義なき侵略戦争と、課せられた状況下で、国を越えて人としてなすべきことをなそうとした男たちの物語。
『黒南風の海』を読んでいると、当時の日本の軍事力(戦術や武器)がアジアでトップクラスであったことを再認識する。同時に文禄の役で秀吉軍を苦しめた最大の敵が「冬将軍」だったことも新発見。この戦いについては積極的に知ろうとしなかったこともあるが、あまりにも知らないことに気付く。
「文禄・慶長の役」での加藤清正の戦いぶりを新感覚で描き、面白く読めた。好戦派として描かれることの多い清正だが、この作品では、思慮深くて内に熱いものを秘めた武将として描かれ、魅力的だ。北方謙三さんの中国歴史小説のヒーローのように。
また、佐屋嘉兵衛忠善=沙也可と、対照的な立場の人物として、朝鮮人の金宦(きんかん。勘定方役人のこと)こと、良甫鑑が登場する。二人の男たちの国を思う気持ちと、生き様に快い感動を覚える。
もはや生まれた国などどうでもよい。一度、この大地に生を享けた者は、この大地に恩返しをすればよいのだ。
(『黒南風の海』P.335より)
グローバル化が進み、グローバルマインドが求められる今、そして、他国との間でトラブルの火種を抱えた今こそ、地球人であるがために、読んでおきたい一冊である。
物語●天正二十年(1592)、加藤清正の家臣で、筒衆頭(鉄砲隊長)を務める佐屋嘉兵衛忠善は、朝鮮半島の釜山に上陸した。豊臣秀吉は、十六万の精兵を第一軍から第九軍に編成し、順次、朝鮮への渡海を命じた。朝鮮半島に上陸した、第二軍の加藤清正勢を待っているはずの小西行長率いる第一軍の姿はなかった。朝鮮の民を撫で斬りにして、殺戮の限りを尽くして、漢城に向かっていた…。
目次■第一章 焦熱の邑城/第二章 酷寒の雪原/第三章 苦渋の山河/あとがき