大江戸仙女暦
(おおえどせんじょれき)
石川英輔
(いしかわえいすけ)
[時代SF]
★★★☆☆☆
♪『いな吉江戸暦』改題。
洋書に、『Then and Now』というシリーズがある。歴史的な建造物(たとえば、パルテノン神殿やコロッセウムなど)の現在の姿と、建造直後の姿を比較して見せるものである。その比較の仕方がユニークで、現在の姿の写真の上に、透明シートの上にかつての様子を伝える絵を描き、現在とかつてで共通する部分は透明のまま残すというスタイルで、どの部分がどのように変化したかがわかる仕組になっていた。『Then and Now: Cities』は、その都市編であり、ロンドンと東京も含まれていた。ロンドンなどのヨーロッパの街が、昔の建造物も大切に遺しているのに対して、東京は一変してしまっていた。
『大江戸』シリーズの最新作では、主人公の速見洋介は、遂にロンドンの昔にも行くことになる。ふと、『Then and Now』を思い出してしまった。作者は、今までの作品で、現在と江戸時代を比較し、エネルギー事情を中心に江戸時代を評価してきた。今回は、論をさらに進めて、江戸時代と同時代のロンドンと比較し、江戸時代を評価している。
こんな風に書くと、難しい本に思えるが、物語はお気楽である。現代から江戸へ転時(タイムトラベル)した男が、芸者と贅を凝らして、江戸の名所を巡るお話である。歌舞伎の顔見世興行の初日を特等席で見物したり、大川の舟遊びを楽しんだり、愛宕山で雪見をしたりと。
物語●速見洋介は、博物館の取材でロンドンに来ていた。シティからロンドン橋まで歩く間に、洋介は、約百六十年前のロンドンの世界を透視してみた…。
ロンドンでの転時を繰り返した影響か、江戸への転時をすると、いつもよりも五年前の文政五年の世界に戻ってしまった…。
目次■ロンドン橋/流子/いな吉/周の春/顔見世/団十郎/白魚/テームズ川/大川/春着/夏と春/東と西/二人/愛宕山/紅と白/あとがき/文庫版あとがき/解説 新井素子/参考文献について