鷺の墓
(さぎのはか)
今井絵美子
(いまいえみこ)
[武家]
★★★★☆☆
♪作者の今井絵美子さんは『小日向源伍の終わらない夏』で、第10回九州さが大衆文学大賞・笹沢左保賞を受賞した、新進の時代小説家。
瀬戸内の一藩(瀬戸藩)を舞台に、繰り広げられる人間模様を描き上げる連作時代小説。藤沢周平作品を彷彿させる下級藩士たちの日常の一コマが、何ともいえないリアリティがあって共感を持ちながら読み進めることができる。まさに瀬戸内の海坂藩という感じだ。
とくに、昼行灯とか空豆とか、周囲に揶揄されながら、目立たぬように生きてきた勘定方三十五石取りの来栖又造が、自身を襲った凶事に立ち向かう「空豆」の話など、端正な作風で印象に残る物語である。
次の作品が楽しみな新しい作家の登場である。
物語●「鷺の墓」馬廻り組五十石の保坂市之進は、祖母槇乃と婢の三人暮らし。無外流免許皆伝の腕を買われて、藩主の腹違いの弟・松之助君の警護の任務を命じられた…。「空豆」勘定方三十五石取りの来栖又造は、亡くなった妻の姉の次女である、姪の芙岐と二人暮らし。今は昼行灯とか空豆とか藩士たちに揶揄されているが、若い頃は一刀流の遣い手として鳴らしたという…。「無花果、朝露に濡れて」六十石取り古文書図書方牛尾爽太郎の後妻に入った紀和は、仕立ての内職をしていた。ある日、ある日婚礼衣装の白無垢の仕立てを頼まれた…。「秋の食客」一月前に役替えがあり、十年目にしてようやく、勘定方下役についた祖江田藤吾宅に、粗衣蓬髪の浪人風の男、高尾源太夫がやってきた…。「逃げ水」保坂市之進は、かつて祖母槇乃のお茶の弟子で、美人の野枝と長江坂ですれ違った。野枝は備中松山藩に御弓方組頭のところに嫁ぎ、嫡男をもうけていたが、故あってお子ともども実家に戻っていた…。
目次■鷺の墓|空豆|無花果、朝露に濡れて|秋の食客|逃げ水