闇の狩人 上・下
(やみのかりゅうど)
池波正太郎
(いけなみしょうたろう)
[ピカレスク]
★★★★☆
♪新潮文庫より1980年に刊行されたタイトルを、「歴史・時代小説フェア」の一冊として角川文庫で新たに刊行。これを機会に再読しようと思って手に取った。時代小説が好きになり始めたばかりの頃、池波さんの作品をいろいろ読んでいたので、何となくこの物語も読んだ気になっていた。もちろん、読み始めてすぐに初読で有ることに気付いた。
「いつものことで、結末がどうなるか、作者にもわからないが…」と、執筆に先駆けて作者が語っているように、読んでいる途中で、展開が読めずに、ワクワクしながら読んだ。
舞台となる時代は明記されていないが、大盗・蓑火の喜之助や羽沢の嘉兵衛の名や、料理屋の元長などが登場することから、鬼平や梅安が活躍した時代と重なるように思われる。
物語自体も、盗賊の世界と、仕掛人の世界が交差したり平行したりして展開する。しかも主人公の一人、記憶喪失の男・谷川弥太郎をめぐる謎が話をさらに複雑にしてゆく。
もう一人の主人公である、雲津の弥平次の言動を見ていると、作者の分身のように思えてならない。周囲の人への気配りや立ち振る舞い、達観した人生観など、ダンディズムという言葉を思い出させる。谷川弥太郎を人格をもった一人の大人の男に導いたように、読者を大人の世界(人間として義務や責任を負う社会)へ誘う本でもある。
「人の一生なんてものを食べて寝て、たまに女を抱いて……煎じつめれば、それだけのことさ。」(下巻p.87)と、達観できるようになるのはいつの日だろうか。
物語●上州と越後の国境に近い温泉、〔坊主の湯〕で療養中の盗賊・雲津の弥平次は、切り立った崖の下で、倒れている若い侍を見つけた。宿に連れかえって若い侍は蘇生したが、頭の打ち所が悪かったらしく記憶を亡くしていた。弥平次は、男に谷川弥太郎の名前を与え、衰弱した体が回復するまで面倒をみた後、金を与えて別れた。それから2年後、弥平次は、属していた盗賊団の権力抗争に巻き込まれていた…。
目次■上下巻とも、目次なし