(さいごのちゅうしんぐら)
(いけみやしょういちろう)
[忠臣蔵]
★★★★☆☆ [再読]
♪『四十七人目の浪士』(1997年・新潮文庫刊)を改題したもので、刊行当時面白く読んだ記憶がある。NHK金曜時代劇「最後の忠臣蔵」(上川隆也主演)の原作だが、ドラマを見て、例によってディテールをずいぶん忘れてることに気付いた。
池宮さんの赤穂浪士吉良邸討ち入り事件三部作『四十七人の刺客』、『最後の忠臣蔵』、『その日の吉良上野介』)を読むと、今までの忠臣蔵ものが浅薄で体制的で古臭く感じられる。討ち入りに加盟し切腹していった者への無責任な称賛、脱盟した者への心無い中傷など、いい加減な世論というものを痛感させられる。大石内蔵助がそのことまで思い巡らせていたとしたら、恐るべき人間通といえる。
本書は、討ち入り後に消息不明になった浪士・寺坂吉右衛門にスポットをあてることで、討ち入り事件が現在の形で伝えられるようになった要因を描いている。そしてそれは後に残された赤穂浪士たちの苛烈な生き様があった。とくに「命なりけり」で描かれるエピソードは、ある意味で討ち入り事件以上のスケール感がある。
TVドラマを見ていて、和久井映見が演じた篠という女性が印象に残ったが、原作では「飛蛾の火」の篠と「命なりけり」の槇という、二人の女性として描かれていた。また、大石内蔵助の愛妾・可留の娘・可音(かね)の嫁入りがドラマのクライマックスになっていたが、「最後の忠臣蔵」にそのエピソードが描かれていて、やはり心を打つ感動的なシーンだった。
物語●「仕舞始」寺坂吉右衛門は、大石内蔵助から大役を命じられた。討入の一統から離れ、その首尾を浅野内匠頭御後室瑶泉院さまと御舎弟大学様に報告するとともに、討入の生き証人として生き抜くことであった…。「飛蛾の火」吉右衛門は、赤穂で帰農したかつての同僚を訪れ、かつて嫁にと考えていた別の同僚の妹・篠が大垣藩士に嫁いだ後、兄が討入に加盟しなかったということで離縁されたことを知った…。「命なりけり」箱根の塔之沢の温泉に投宿していた吉右衛門は、伊豆大島へ配流となっていた赤穂浪士・間瀬久太夫の子息・佐太八が亡くなったことを知った…。「最後の忠臣蔵」但馬出石で、吉右衛門は、大石家の用人で親友だった瀬尾孫左衛門を見かけた。孫左衛門は、討入の前夜に脱盟して以来消息不明だった…。
目次■仕舞始|飛蛾の火|命なりけり|最後の忠臣蔵|解説 長坂健二郎