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受城異聞記

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受城異聞記
受城異聞記
(じゅじょういぶんき)
池宮彰一郎
(いけみやしょういちろう)
[短編]
★★★★☆

『けだもの』(1996年10月、文藝春秋刊)を改題。文庫本の新刊案内を見たとき、池宮さんに、あれ、こんな作品あったかな、と思ったが改題と聞いて納得。収録作品を見ると、「けだもの」が中編で、表題作をはじめとした4編が短編である。タイトルが変るだけで、作品集の感じがまるで変ってしまうものだ。

「受城異聞記」は、確かにすばらしい作品。全編に緊張感が漲っている。厳冬の雪山越えという設定が興趣に富んでいる。

「おれも、おまえも」は、作者の家康観が楽しめる一編。『島津奔る』(新潮社)が読みたくなってしまう。

やはり圧巻は、「けだもの」。池宮さんの作品の多くが歴史小説色が強いのに対して、この作品は、典型的な時代小説だ。名脚本家であったこともあり、そのストーリーテリングの見事さと、視覚的なイメージがともなう文章がいい。

解説の菊池仁さんが紹介されているが、作者のエッセイ集『義、我を美しく』の中に収められた「歴史小説における史実と虚構」の中で、「司馬さんの築いた鉄壁のような司馬史観、司馬文学というものに、同じ世代で生まれた人間は一つの義務を持っていると思うんです。それは司馬史観の中に少しでも切れ目をつくりたい。そうしないと、歴史文学は発展していかなくなってしまう。司馬史観が余りにも圧倒的な強みを持っているだけに、それを感じます。これは同時代に生まれあわせた人間の義務ではないか。我々同年代の者の務めとして、司馬史観に少しでも抵抗する新しい歴史観を世に提示する必要がある、そう思っております。」と述べている。この文章を眼にして、鳥肌が立つほど強い感銘を受けた。

物語●「受城異聞記」美濃郡上八幡藩の金森頼錦(よりかね)が改易されることを受けて、加賀大聖寺(だいしょうじ)藩の郡奉行を務める生駒弥八郎以下二十四名が、高山陣屋と故城の接収に向かった…。「絶塵の将」尾張国清洲に、いちという悪餓鬼がいた。あるとき、酒に酔った織田家の足軽小頭と喧嘩になり、その男を噛み切って殺してしまった…。「おれも、おまえも」永禄年間の末頃、茶屋四郎次郎清延は、浜松城に家康を訪ねた…。「割を食う」備前岡山藩の渡部数馬の屋敷内で、当主の実弟で源太夫という者が斬殺された。下手人は同じ家中の者の倅、河合又五郎とわかった…。「けだもの」町方同心三刀谷孝吉は、北町奉行所内で並ぶものなき、捕物名人だった。その彼が“けだもの”とも呼ぶべき凶悪犯に出会った…。

目次■受城異聞記|絶塵の将|おれも、おまえも|割を食う|けだもの|解説 菊池仁

カバー:芦澤泰偉
解説:菊池仁
時代:「受城異聞記」宝暦八年。「絶塵の将」天正二年。「おれも、おまえも」永禄十一年。「割を食う」寛永七年。「けだもの」文政二年。
場所:「受城異聞記」加賀大聖寺、山代。「絶塵の将」尾張清洲。「おれも、おまえも」遠州浜松。「割を食う」備前岡山。「けだもの」八丁堀、伝馬町、深川門前仲町ほか
(文春文庫・448円・99/09/10第1刷・285P)
購入日:99/09/11
読破日:99/09/18

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