(たるやさんしろう ごんじょうちょう おとこっぱれ)
(いかわこうしろう)
[痛快]
★★★★
♪文庫書き下ろし。町年寄の樽屋三四郎が江戸の町の平和と安寧を図るための活躍を描くシリーズ第1作。
主人公の樽屋三四郎は、江戸開闢以来の町年寄の樽屋藤左衛門の当主を継いだばかりの二十三歳の若者。町年寄は、将軍に会える特権町人で、江戸の庶民の見本にならなければならない存在。物語の随所に、その特殊な立場について触れられていて、その役割がよくわかる。
「天下泰平の世になっても蔓延る悪はなくなりません。それを見張るのが、私たち“百眼”の役目なのです」
(『樽屋三四郎 言上帳 男ッ晴れ』P.41より)
樽屋の当主についた三四郎は、やがて、江戸の町を守る影の存在“百眼(ひゃくまなこ)”の存在を知る。
三四郎は青臭くまっすぐな性格から、最初は“百眼”の働きと役割を認めないが、ある事件を機に江戸の町人を守るために、ともに協力してあたることになる。
「江戸の町人、ひとりひとりが大切だからです。目の前のひとりの人を助けられないで、どうして大勢の人を助けることができますか。義は人の助け、義を見てせざるは勇なきなり、なんて言いますが、町年寄にとっては当たり前のことなんです」
(『樽屋三四郎 言上帳 男ッ晴れ』P.303より)
物語では、樽屋のほかに、奈良屋と喜多村という町年寄の他の2家も登場し、それぞれの当主の性格の違いが書き分けられていて面白い。町年寄配下の町名主を描いた、畠中恵さんの『まんまこと』シリーズと読み比べるのも一興か。
物語の章題にもなっているが、「とっかえべえ」という、飴と引き換えに、古鉄を仕入れる商売が出てくる。
主な登場人物◆
樽屋藤左衛門:町年寄「樽屋」の主人、通称三四郎。二十三。町の地割役で枡座を兼ねる
吉兵衛:樽屋の大番頭
奈良屋市右衛門:町年寄筆頭。問屋組合の結成から維持に関する担当
佳乃:市右衛門の娘
喜多村彦兵衛:町年寄。商人や職人の組合関係から人別を扱う
三宅有庵:本道医
榊陣内:蘭方医
紀州屋富左衛門:米問屋の隠居
おたね:“なめくじ長屋”に暮らす女
辰吉:おたねの子
久右衛門:神田久右衛門町の町名主
文次:騙りの男
清兵衛:瓦町の町名主
富永斉二郎:南町定町廻り同心
大熊:岡っ引
嘉平:出稼ぎ者
佐七:出稼ぎ者
おきん:嘉平の娘
伊集院左内:武州浪人
貫右衛門:普請請負問屋『武蔵屋』の主人
村瀬:『武蔵屋』の用心棒
黒田九郎兵衛:普請方下奉行
遠藤権兵衛:普請奉行
野口左門:勘定吟味改
治兵衛:外神田相生町の町名主で肝煎り
捨吉:とっかえべえの少年
伊兵衛:西海屋の主人
お染:芸者
喜久蔵:町名主
与茂助:島帰りの男
おくみ:与茂助の娘
松乃屋:南品川の旅籠の主人
阿部主計頭:勘定奉行
清左衛門:材木問屋「山形屋」の主人
美沙:清左衛門の内儀
葛西駿助:支配勘定
千鶴羽:産婆
徳川吉宗:八代将軍
大岡越前守忠相:南町奉行
物語●「男ッ晴れ」町年寄樽屋藤左衛門の当主になったばかりの三四郎は、年賀の挨拶と家督を継いだお披露目で江戸城に登城する途中に、町医者三宅有庵の診療所の前で子どもと女が町医者から追い払われているのに出くわした…。
「野ざらし」三四郎は、南町奉行の大岡越前守に隅田川の土手に住み付いた無宿者たちのために、向島の堀切村の外れに、無宿者たちの手で新しい町を作ることを提言した…。
「とっかえべえ」越前堀河岸に積み上げられた荷物の上に、炎のついた蝋燭を手にした男が登り、回船問屋の主を呼べと騒ぎを起こした。その男は島帰りだったが、浪人の伊集院左内ととっかえべえの少年捨吉によってあっさり捕まった…。
「水底の月」樽屋三四郎のもとに、江戸で指折りの材木問屋でやり手の山形屋清左衛門が、訴えごとを持ち込んできた。勘定所の支配勘定の御家人が清左衛門の内儀と不義密通をして姿をどこかにくらましたという。探し出して妻ともども死罪にするように願い出た…。
目次■第一話 男ッ晴れ/第二話 野ざらし/第三話 とっかえべえ/第四話 水底の月