暴れ旗本八代目 けんか凧
(あばれはたもとはちだいめ・けんかだこ)
井川香四郎
(いかわこうしろう)
[痛快]
★★★☆☆
♪『くらがり同心裁許帳』などで最近活躍が目立つ時代小説作家井川さんの新シリーズ。「銭形平次」や「暴れん坊将軍」「八丁堀の七人」などのTV時代劇の脚本家としても活躍されてきた方らしい。
冒頭で、主人公の旗本で大目付の大河内政盛が、歯痛に悩まされるシーンが描かれていて、興味深かった。時代小説で虫歯を描いた作品はこれが初めてである。自分自身、2カ月前に歯肉炎で歯医者通いをしている身なので、政盛に同情してしまう。
江戸時代は、庶民の食文化が現在と違い、貧弱だったこともあり、虫歯の人がほとんどいなかったのだろうか? 一度、調べてみたいテーマである。作品のもう一人の主人公、政盛の一人息子の右京の方は凧揚げ狂いという設定。凧揚げは、冬の風物詩として描かれることが多い。佐江衆一さんの『江戸職人綺譚』では、凧師と呼ばれる凧つくり職人が描かれている。
主人公のひょうたん侍、大河内右京が悪の巣窟、鬼ヶ島に乗り込むところが、映画『どら平太』をホーフツさせて、わくわくさせる。政盛と右京の親子関係を翻弄する西蓮寺の住職の娘・綾音の存在がアクセントになっている。田沼意次が頼りなく描かれているのが、逆に新鮮かも。
物語●江戸城に登城する大目付・大河内讃岐守政盛は、歯痛に悩まされていた。大河内家は三河徳川以来の旗本で、融通の利かない無骨な武門として知られていた。政盛の目下の懸念は、汐留沖の埋立地が無法者の巣窟になっているにもかかわらず幕府は野放しの状態で、江戸町民が鬼ヶ島と呼んで恐れていることだった。“鬼ヶ島”のことは評定で既に何度も話題にしてきた懸案だが、田沼意次を中心とした幕閣重職たちはいつも結論を先延ばしにしてきた。
その頃、政盛の一人息子で三十三歳になる右京は、ひょうたんのようにぶらぶらしていて、仲間たちと大凧揚げに興じていた…。
目次■第一話 吉原籠城/第二話 消えた密書/第三話 金座炎上/第四話 大江戸鬼ヶ島